印刷できない線
印刷で飛んでしまうオブジェクト
オフセット印刷では、まず印刷の原版である刷版が作られ、インキが刷版からブランケットへ、さらにブランケットから紙に転写されることで印刷が行われます。
また、CTPの場合は刷版が直接出力されますが、イメージセッタの場合はフィルムからPS版を焼き付けるという作業が必要です。これも一種の転写には違いありません。
このように何度も転写が行われているにもかかわらず、文字や線がきちんと指定された通りに印刷されるのは、印刷がそれだけ高度で精密な技術によって成り立っているということでしょう。ただし、どんなものでも印刷できるというわけではありません。気をつけないと印刷時にあるはずのものが消えてしまうということもあり得るのです。
画像などを印刷する場合、175線で1~2%程度の網点は飛んでしまい、印刷されないと言われています。175線で1%の網点というと、だいたい0.01ミリ単位の世界です。印刷現場では、インキ量をコントロールして網点(色)を調整しますが、0.01ミリくらいの小さな点を正確に印刷することはとても困難なことなのです。
最近はCTPが普及し、刷版がデータ通り正確に出力できるようになったため、印刷の管理を徹底すれば2~3%の網点でも何とか再現できるようになってきてはいるようです。フィルムから刷版を焼くとなると、1%レベルの網点を正確に再現するなどほとんど不可能に近い作業です。
一般に、アミの濃度は10%以上で指定するのが無難であり、CTPで出力し、印刷も厳しく管理されている場合でも安全を考えると5%程度は必要でしょう。
注意が必要な線幅
平アミが印刷できちんと出ないのも問題ですが、それ以上に問題になるのが、罫線などが飛んでしまうというトラブルです。特に図版の引き出し線などは消えてしまうと重大な事故につながります。
印刷で使われる線の幅は、一般に0.1ミリが目安とされています。要するにオモテ罫の太さです。トンボも0.1ミリ程度が一般的です。
これは、0.1ミリ未満の線だと絶対に消えてしまうということではありません。さまざまな印刷条件を考えた場合、0.1ミリあればまず大丈夫という基準ですから、条件さえよければ0.05ミリくらいでもちゃんと印刷できるでしょうが、実際問題としてデータを作る段階で何ミリまでなら印刷可能というのを見極めることは困難なのです。
図版を作る場合は、0.1ミリ未満の線を使わないように注意しなければなりません。なお、単位をポイントで指定する場合は、0.28ポイントくらいが目安になります。
さて、図版を作る際に、線幅に十分注意していても、印刷でトラブルが起きるケースがあります。
たとえば、Illustratorで図版を作った場合、通常はそれをレイアウトソフトに貼り込んでレイアウトします。その際、図版を100%で貼り込めばいいのですが、縮小した場合は、線幅もそのまま縮小されることになります。
0.1ミリ幅で指定した線の図版を20%に縮小して貼り込めば線幅は0.02ミリとなり、印刷可能なレベルを下回ってしまいます。2,400dpiで出力したとすると、0.02ミリはドット2個分。CTPでも印刷の再現は困難です。
この場合、プリンタ出力だと線の太さがきちんと確認できないというのが問題をさらに大きくします。レーザープリンタの場合、細い線が本来の幅よりも太く出力されることがあります。つまり、ゲラを見ただけでは線幅が印刷に適しているかどうか確認できないのです。
こういったトラブルを防止するためには、第一に図版の線幅を必要以上に細くしない、次に、図版をレイアウトソフトに貼り込む際、縮小はしないといったルールを守ることが大切です。
もちろん、ミスのチェックも重要です。それにはPDFを利用する方法が便利でしょう。Acrobatにはプリフライト機能が備わっています。この機能を使えばある基準より細い線がないかどうかをチェックすることができます。
さらに、Acrobat 7には、線幅をコントロールするヘアライン機能も用意されています。この機能を使えば、たとえば0.1ミリ未満の線幅の線を思い通りの太さにすることが可能です。
線が印刷されないというトラブルは、後工程でのチェックが難しいものですが、結果の重大性を考えると、制作段階でしっかりと管理することが大切になってきます。
(田村 2006.2.27初出)
(田村 2016.11.26更新)