JPEG 2000
不可逆変換であるJPEG
デジタル画像の形式は星の数ほどありますが、JPEG形式ほど多くの場面で使われているものはほとんどないでしょう。DTPでは当初、JPEG画像のサポートは十分ではありませんでしたが、現在ではアプリケーションやRIPもJPEGへのサポートが進んでおり、TIFFやEPSのように使えるようになってきました。
このように汎用性が高く、使いやすいJPEGですが、問題点もあります。特に、非可逆圧縮である―つまり圧縮によって画像品質が劣化してしまうという性質は、DTPで使う場合にもっとも懸念される点でしょう。
画像をJPEG形式に変換する場合、圧縮率がそれほど高くなければ印刷物にしても目で分かるほどの激しい劣化はまず起きません。ただし、画像の劣化はJPEG形式で保存するたびに起きるため、何度もJPEGで保存しているとどうしても劣化が目立つようになってきます。
JPEG画像における劣化は、モスキート・ノイズやブロック・ノイズという形で現われます。モスキート・ノイズとは絵柄のエッジの周りに蚊がまとわり付くように現われるノイズ(歪み)、ブロック・ノイズは小さなブロック状に現われるノイズです。
JPEG圧縮では、画像を小さなブロックに分割、それぞれをDCT変換(離散コサイン変換)し、さらに量子化してから符号化を行います。量子化の際に画像の圧縮度合いが決まりますが、この時点で元データと若干ながら数値が変わってしまうのです。量子化が粗ければ粗いほど圧縮率は高くなりますが、元データとの違いも大きくなってきます。
JPEG形式を制定したJPEG(Joint Photographic Experts Group)では、この問題を解決するために、新たな圧縮形式の規格を開発することになりました。それが、2000年に規格のパート1が公開された「JPEG 2000」です。
JPEG 2000の仕組み
JPEG 2000の規格には、静止画像だけでなく、動画や3D、セキュリティなどさまざまな規格がパートごとに分けて収録されています。パート1がJPEG 2000の根幹をなす静止画の基本的な仕様です。
JPEG 2000がJPEGと違う最大の点は、画像をDCT変換する代わりにウェーブレット変換を行うというところでしょう。JPEGやJPEG 2000では、画像の数値を波の成分に変換します。その際、ウェーブレット変換は小さな波(ウェーブレットとはさざなみの意味)のパターンを使うことで局部的な変化にも柔軟に対応することができます。
JPEGで出現するモスキート・ノイズは、JPEG圧縮だと色や明るさが急激に変化するエッジの表現に弱点があることを示していますが、JPEG 2000のウェーブレット変換は、なだらかな変化にも急激な変化にも強いというのが大きな特徴なのです。
また、JPEGの場合は、画像を8×8ピクセルのブロックに分け、その中で変換を行っていたため、圧縮・展開の際ピクセルの数値が若干変化することでブロックの継ぎ目が目立つ現象(いわゆるブロック・ノイズ)も避けられません。
JPEG 2000ではブロックのサイズを自由に決めることができます。たとえば画像全体をひとつのブロックにすれば、ブロック・ノイズが起きる可能性はなくなります。
圧縮率がそれほど高くない場合だとそれほど大きな違いはありませんが、圧縮率が高くなればなるほどJPEGとJPEG 2000の違いは顕著に現れます。高圧縮なJPEG画像で目立つ不自然な部分がJPEG 2000だとかなり抑えられ、自然な状態を維持することができるわけです。
なお、JPEGは圧縮率を自由にコントロールできるというのがメリットのひとつでしたが、JPEG 2000でもこの点は同じです。さらに、圧縮率はあまりよくないものの、劣化が起きず完全に同じ画像を復元する可逆圧縮も可能になっています。
JPEG 2000のサポート
では、JPEG 2000を実際に使うことはできるのでしょうか。残念ながらJPEG 2000をサポートしているアプリケーションやシステムは多くありませんが、その中で、Adobe製品は比較的早く対応が進んでいます。
Adobe製品でもっとも早くJPEG 2000をサポートしたのはPhotoshopです。バージョン7.0が発売された後にAdobeはCAMERA RAW形式とJPEG 2000形式をサポートするプラグインを別途発売、さらにCS以降でオプションとしてJPEG 2000用プラグインをバンドルしています(アプリケーションのCD-ROMに収録されている)。ただし、標準機能でサポートしたのはCS5からでした。
JPEG 2000の拡張子はJP2、JPFなど複数あります。PhotoshopでJPEG 2000で保存を実行すると、専用ダイアログが現れ、細かく設定することができます。
一方、Acrobatは6.0以降でJPEG 2000を標準でサポートしています。画像をJPEG 2000圧縮してPDFにしたい場合、PDF設定の画像タブの「圧縮」欄で「JPEG 2000」を選びます。なお、JPEG 2000を選ぶためには、PDFの形式がAcrobat6.0(PDF1.5)以上になっていなければなりません。
InDesignが貼り込みをサポートしていないなど、DTPでJPEG 2000を使うのはまだ時期尚早です。ただし、いずれはデジタル画像の主流になる可能性を秘めた、将来性のある画像形式であり、今後の動きには注目しておく必要はあるでしょう。
(田村 2006.7.3初出)
(田村 2016.5.25更新)