行で分割しない文字の処理
行末で分割しない文字
長い文章は、文の途中で改行が入ることを前提に組まなければなりません。その場合、場所によっては改行できない部分があります。
たとえば、句読点や閉じ括弧の前、開き括弧の後で改行しないというのは日本語組版における一般的な基本原則ですし、促音(小さい「っ」)や長音「ー」、拗音で使う小さい文字(ゃ、ゅ、ょ。捨て文字と呼ぶ人もいる)などもルールによってはその前に改行が入らないことになります。
こういった規則は「禁則」と呼ばれ、組版ソフトであれば設定によって自動的に処理が行われます。たとえば、InDesign(インデザイン)であれば「禁則処理セット」で設定を指定することになります。
禁則処理セットでは、行頭禁則(行頭にこないようにする文字。句読点、閉じ括弧など)、行末禁則(行末にこないようにする文字。開き括弧など)、分離禁止文字(2つ以上続ける場合に間で改行しない文字。…、-など)といったルールが指定できます。
禁則ルールは常に同じというわけではなく、仕事によって禁則になる文字が変動しますから、禁則処理セットも場合によってはカスタマイズしたりして使い分ける必要があります。
分割禁止機能
禁則処理は日本語の組版に欠かせない便利な機能であり、MS-Wordなどのワープロソフトにも搭載されていますが、実際の組版では禁則処理機能だけで処理できないようなケースもでてきます。
たとえば、特定の語句を改行で分割されないようにしなければならない場合です。「インフォルムは社名なので改行しないように組んでほしい」といった要望があった場合、禁則処理設定では対応できません。
こういった場合、ソフトによってはその語句が出てくる行の文字間隔をユーザーが調整して処理を行うしかないことになりますが、これだと修正が入るたびに処理をやり直さなければならず、大変な手間がかかります。
InDesignの場合、文字設定に用意されている「分割禁止」というオプションを使うことでこの処理を行うことができます。該当する語句を選び、文字パレットのメニューから「分割禁止」を選択すると、その語句は間に改行が入らなくなり、語句の前か後で改行されます。
この機能は文字スタイルでも指定できますから、文字スタイルを作っておき、それを適用するだけで分割されない処理を行えます。また、ドキュメント全体を一括で処理したい場合は、検索置換でその語句に対して分割禁止を適用すればいいわけです。
なお、特定の語句といっても、1つや2つの決まった語句ではなく、たとえば「特定の専門用語」とか「特定の文字で始まる語句すべて」といったケースもあり得ます。
そういった場合に一括処理したいのであれば、テキスト段階で文字スタイルなどのタグ付け処理をするか、CS3以降であれば正規表現を使って処理することも可能ですが、それでもすべてのケースで一括処理できるとは限りません。やむを得ない場合は手作業での処理になります。もちろん、修正などで新たに処理が必要になる語句が増えることもあり、そういったケースでは十分な注意が必要です。
分割しないスペース
分割できないのは特定の語句だけとは限りません。たとえば、製品の型番や数字と単位の間などでスペースが入る場合にそのスペースで改行しないように指示されることがあります。
「100 km」とか「M500 PS」といったスペースが入るケースで、そのまま組めば100とkmの間、M500とPSの間で改行されることがあり得ます。そういった場合に改行されないようにする機能として、InDesignには「分散禁止スペース」が用意されています。
通常のスペースの代わりに分散禁止スペースを指定すると、見た目はそのまま変わりませんが、改行の位置にくると分割禁止された語句と同様、前後の文字を含めて追い出し(場合によっては追い込み)されます。
なお、CS2では分散禁止スペースは1種類のみで、スペースの幅は固定になっていましたが、CS3以降では、「分散禁止スペース(固定)」と別に、ジャスティファイされた行で伸び縮みする文字間隔に合わせてスペースの幅が調整される「分割禁止スペース」が加わっています。
ここまで、文字列を分割しないための機能として、禁則機能、分割禁止機能、分割禁止スペースの3つについて触れましたが、実際に文字列を行で分割されないようにするためにはこれらの機能をうまく使い分けて作業することが必要になってきます。
(田村 2009.8.24初出)
(田村 2016.5.25更新)