Illustratorへの画像の貼り込みの問題
画像の貼り込み
DTPで最も使われているソフトであり、DTPの基本ソフトとも言えるのがAdobe Illustratorです。アドビ初のDTPソフトとして世に出たIllustratorは、アルダス社のFreeHandやコーレル社のCorelDRAWといった強力なライバルとのシェア争いにも打ち勝ち、図版の作成だけでなく、チラシなどペラ物印刷物のレイアウトソフトとしても広く使われています。
グラフィックソフトとして考えた場合、重要なポイントの一つがビットマップ画像の扱い方です。もちろん、あくまでもドローソフトでありフォトレタッチソフトではない以上、画像の色補正も出来るべきだ、などとは言いませんが、少なくともビットマップ画像を思い通りの位置に配置できるようでないと、現代で求められる緻密なデザインには使えません。
Illustratorにビットマップ画像を貼り込む場合、「リンク」と「埋め込み」という二通りの方法があります。リンクとは、画像データそのものは外部に置いたまま、位置や大きさの情報、そして低解像度のプレビューデータを使って画像を配置するというもので、画像データ本体は出力時に正しく配置されます。
一方、埋め込みというのは画像をIllustratorデータ中にそっくり取り込むやり方です。埋め込みだとビットマップ画像のデータが含まれる分、ファイルサイズが大きくなり、画像がたくさん配置されるデータでは数百MBになる場合もあり、ファイルの安全性という点では不安が残ります。
ただし、リンクの場合は、外部の画像ファイルも一緒にしておかないと、出力の際にプレビューデータが出力されてしまうといったトラブルが起きかねません。画像をリンクしたIllustratorファイルをレイアウトソフトに貼り込んだ場合、データを収集する際に孫リンク先の画像を収集しそびれてしまうというトラブルも少なくないのです。埋め込みならそういった心配は無用であるという点はメリットです。
なお、画像を埋め込む場合、Illustratorのドキュメントデータと画像データのカラースペースの違いに注意しなければなりません。Illustratorデータに画像を埋め込むと、カラースペースは原則としてIllustratorのカラースペースに統一されます。たとえばRGB画像をCMYKベースのIllustratorドキュメントに埋め込むと、その時点で自動的に画像はCMYKに変換されてしまうのです(どのように変換されるかはIllustratorのカラー設定に依存する)。
特色を使った画像を貼り込む場合(貼り込んだ時点で特色がCMYKに分解されてしまう)や、(あまり一般的ではありませんが)画像の色変換は出力時にRIPで行う場合などは、埋め込まずにリンクするべきでしょう。
画像が分割される危険
Illustratorに貼り込む画像のフォーマットには、EPSまたはTIFFを使うというのがこれまでは一般的でした。最近のIllstratorだとPSDやPDFなどもサポートされているので今後は多様なデータが使われていくようになるかもしれません。ただし、画像のフォーマットによってはトラブルが生じる可能性があります。
Photoshop EPS画像をリンクで貼り込むというのは、従来もっとも一般的な方法でした。ところが、Illustrator CSやCS2にEPS画像をリンクで貼り込んだ場合、それをPDFに保存すると画像が分割されてしまうのです。この方法で保存されたPDFをAcrobatで開いてみると、画像に複数の白い水平の線が見える場合があります。これは画像が横に切断されているのです。これでは印刷時に重大なトラブルになりかねません。
なお、分割されるのはある程度以上の解像度がある画像であり、72ppi以下では起きないとアドビではしています。また、貼り込む画像形式は、EPSだけでなくPSD(Photoshopのネイティブ形式)でも起きるようです。
PDFに保存すると分割されるのなら、IllustratorでPDFに保存しなければいいだろうと思われるかもしれません。ところが、この問題はAI(Illustratorのネイティブ形式)ファイルで保存しても起きるのです。最近のIllustratorでは、ネイティブデータにPDFを元にした形式が採用されているからです。
さらに問題なのは、AI形式で保存し、ふたたびIllustratorで開いても、分割されていない画像が現われる点です。そのため、Illustrator上では画像が分割されていることに気づきません。
IllustratorでAI形式に保存する場合には、画像などすべてが一体化されたPDFのデータとは別に、画像のリンク情報が保持されます。Illustratorで開く場合はリンクされた外部の画像を改めて呼び出すため、分割されていない状態になりますが、AcrobatでAIファイルを開くと画像が含まれたPDFデータを開くので分割された状態になるというわけです。
このAIファイルをInDesignに貼り込んだ場合、Acrobatと同様内部のPDF化された画像が使われるため、分割された状態になります。貼り込んだ段階で分割されているので、当然、出力でも分割されたまま出力されます。
この問題を解決する方法としては、「Illustratorでは画像をリンクせず埋め込む」「EPS画像を使わない」「AIやPDF形式で保存しない」などが挙げられます。ただし、画像のリンクやAI形式にはメリットもあり、使いたいケースも少なくないでしょう。
また、たとえばIllustratorからAIでなくEPS形式に保存すれば問題は一応回避されますが、中間工程であってもAIに保存すれば内部に分割された画像を抱え込むことになるので、場合によってはそれがトラブルにつながることがあり得るかもしれません。
そう考えると、貼り込み画像にPhotoshop EPS形式は使わず、TIFFを使うというのがもっとも現実的で効果的な対応策ではないかと思われます。もともと自由度の高いフォーマットであるTIFFは、それゆえに出力時のトラブルを指摘され、DTP現場で敬遠されたこともありましたが、現在のDTP環境で使うのであればむしろ最も無難な画像フォーマットと言えるかもしれません。
(田村 2007.11.19初出)
(田村 2016.5.31更新)