組版における行の扱い
行送りと行間
文章を組んでいく際、文字のサイズや書体と同様に重要なのが行の間隔です。特に長い文章の場合、行の間隔によって読みやすさも左右されることになります。
行の間隔を指定する時に使われるのが「行送り」と「行間」です。どちらも同じように行の間隔を指定するものですが、考え方が異なるため同じ間隔であってもそれぞれ数値は違ってきます。
行送りとは、行における基準位置をあらかじめ決め、2行の間での基準位置同士の距離を表したものです。横組みの場合、文字の仮想ボディ(文字が本来占めるエリア。全角12級文字の場合は12歯四方となる)の上端を基準と考えたとすると、上の行の仮想ボディの上端から下の行の仮想ボディの上端までの距離が行送りとなります。
一方、行間は行と行の間にあるアキの幅を表すものです。横組みの場合、上の行の下端から下の行の上端までの距離が行間です。
要するにどこからどこまでを測るかが違うわけです。では、この二つの値の関係はというと、行間に基準位置までの距離を足したものが行送りです。文字サイズが一定だとすれば、行間プラス文字サイズが行送りになります。たとえば、12級の文字で行送りが20歯だとすると、行間は8歯となるわけです。
注意しなければならないのは、文字のサイズと行送りの基準位置が行送りと行間の関係に影響を及ぼすという点です。見出しと本文のように文字のサイズの異なる行同士だと、「行間+文字サイズ=行送り」になるとはかぎりません。この場合は、基準となる位置をどこにするかによっても行間や行送りが変わってくるのです。
行の並びを調整する場合、行送りを調整しても行間を調整しても同じ結果を得ることは可能ですが、いずれにしても何を基準にして計算するのかということはきちんと把握しておく必要があります。
InDesignの行送り
InDesign(インデザイン)の場合、コントロールパレットや文字パレット、スタイルなどでは行送りを指定し、フレームグリッド設定やグリッドフォーマットパレットでは行間を指定する(行送りの値も表示はされる)ようになっています。
段落パレットやスタイルなどで行送りを指定する場合、「行送りの基準位置」というオプションで基準の位置を決めます。このオプションには「仮想ボディの上/右」「仮想ボディの中央」「欧文ベースライン」「仮想ボディの下/左」の4つが指定できます(デフォルトは「仮想ボディの上/右」)。
このうち、「仮想ボディの上/右」を選んだ場合は、その行(仮想ボディ)の上/右から次の行の上/右までがその行の行送りとなりますが、それ以外はその行(仮想ボディ)から上/右の行の仮想ボディまでが行送りになります。これによって、文字サイズが異なる行の場合に、行の送られ方が変わってくることがあるので注意が必要です。
なお、フレームグリッドで組む場合は行送りを指定しないことが多いのですが、そういう場合でも、行送りの基準位置の指定は影響します。
ちなみに、グリッドに合わせて文章を組む場合、グリッドに対する文字の位置は「グリッド揃え」(段落パレットのメニューなどにある)で指定します。ここの設定には「行送りの基準位置」と同じ項目があり紛らわしいのですが、この指定はあくまでグリッドと文字位置の関係を指定するだけのものです。ただし、文字の位置が変わることで行送りの基準位置も変わり、行送りに影響を及ぼす場合もあります。
テキスト行で行送りが指定されていない場合、段落パレットのメニューにある「ジャスティフィケーション」の「自動行送り」の設定が適用されます。この設定は行送りの値を文字サイズに対するパーセントで指定します。
フレームグリッドで行送りが指定されていない場合は、フレームグリッド設定の文字サイズと行間の値で行送りが決まります。それに対し、「自動行送り」で指定した数値は行送りの最低ラインを意味しており(たとえば150%なら12級の文字の行で行送りを18歯未満にできない)、仮に指定された文字サイズと行間がこの設定を下回ると、行が一行飛ばしになって最低ラインをクリアすることになっています。
プレーンなテキストフレームだと「自動行送り」はデフォルトで175%ですが、フレームグリッドの場合はデフォルトで100%つまり行間が0歯です。しかも、フレームグリッド設定で行間にマイナスの値が適用されると自動的に80%に変わります。フレームグリッドで自動行送りに引っかかるケースをなるべく抑えるための措置だと思いますが、数値がユーザーによって変更された場合はその数値のまま適用されます。
見出しの行取り
ページでは本文の文字サイズや行送りが基本になります。見出しなどで本文一行分に収まらない、あるいはあえて収めたくない場合などは、本文複数行分のスペースを取って収めるというのが一般的です。
この場合、絶対に本文の行スペース分にぴったり収めなければならないというわけではありませんが、半端なスペースを取ると次の本文行が本来の位置からずれてしまい、他の段(コラム)やページと行の位置が合わなくなってしまいます。
本文の複数行分のスペースに見出しをきちんと収めるには、文字サイズや行送りの計算をし、指定することが必要ですが、フレームグリッドやベースライングリッドといったグリッドに行を合わせる機能を使うことで、見出しを本文の行スペースに収める作業が簡単になります。
本文に対し、「グリッド揃え」の「なし」以外を指定すれば、見出しはともかく本文はグリッドに合って流れます。次に複数行スペースへの行の収め方ですが、たとえば、フレームグリッドで見出しを2行取りにしたい場合、見出しを選択し段落パレットで「行取り」欄に2を入力します。これで2行のグリッドのセンターに見出しが配置されます(行送りの基準位置を「上/右」にしておかないと指定した通りの行取りにならない場合があるので注意)。
なお、行取りを指定した行が複数にわたる場合は、CS2以降であれば「段落行取り」というオプションを使うことで複数行の段落をひとつのかたまりとして行取りを行うことができます(段落行取りされた行の間はグリッドではなく行送りの値が適用される)。
また、フレームグリッドではなくプレーンなテキストフレームを使っている場合、「行取り」を指定すると行送りではなく、ベースライングリッドを基準に行取りが行われます。そのため、行送りを基準に行取りをしたい場合はベースライングリッドの間隔を行送りに合わせておいたほうがいいかもしれません。
(田村 2007.12.3初出)
(田村 2016.5.25更新)