InDesign(インデザイン)における文字組みと文字クラス
文字組みのポイントは文字クラス
日本語の文字組みに強いというのが売りであるInDesignですが、ユーザーが文字組みを思い通りにコントロールするには「文字組みアキ量設定」についてきちんと理解しておくことが必要です。
文字組みアキ量設定は、文字と文字の間隔を指定するための設定です。日本語組版では句読点や括弧類など、通常の文字以外の約物と呼ばれる文字の扱いが特にポイントになります。
漢字やかなは全角幅で均等に並べればいいとしても、句読点や括弧類はどうするか、あるいは括弧と句読点が続いた場合はどうか、また、行末や行頭に来た場合はどうか、などは印刷物によって様々です。そういった設定を細かく行うには、文字ごとの間隔を自由にコントロールする必要があります。
また、文字を流し込んだ際、約物や英数字などのために長さが半端になり、そのままだと行にピッタリと収まらない場合もよくあります。そんな時は、文字の間隔を詰めて、あるいは広げて収めることになりますが、どの部分をどれだけ詰める、あるいは空けるかという点も重要なポイントです。
こういった処理を行う場合、カーニングや各種の文字詰め機能で文字と文字の間隔を個別に指定していってもかまいませんが、それだと手間がかかりすぎるので書籍など文字物にはとても間に合いません。
InDesignの文字組みアキ量設定(詳細設定)は、全ての文字を17(細かく設定したい場合は24まで)の文字クラスに分け、クラス同士の間隔を指定することで、適切な間隔を自動的にコントロールしようというものです。
InDesign CS以降の文字クラスには「始め括弧類」「終わり括弧類」「読点類」「句点類」「中点類」「区切り約物」「分離禁止文字」「前置省略記号」「後置省略記号」「和字間隔」「行頭禁則和字」「ひらがな」「カタカナ」「上記以外の和字」「全角数字」「半角数字」「欧文」「行頭」「行末」「段落先頭」(行頭・行末・段落先頭は文字ではないが、それぞれと文字の“間隔”を指定することで行頭や行末での空きをコントロールする)があり、「始め括弧類」「終わり括弧類」「読点類」「句点類」「中点類」はさらに複数の種類に分けられます。
たとえば漢字やかなの後に始め括弧類がくる場合、通常だと括弧類の前に2分の空きが入りますが、この設定を使えば8分アキや空きなしにするなど、パーセント単位で微妙な調整ができるのです。また、行頭や行末、段落先頭との間を指定することで括弧類の位置を指定することもできます。
なお、文字クラスの組み合わせは膨大(2つの文字クラス同士の設定だけで数百通り)であり、それを全て設定しないと使えないというのでは困るので、InDesignには14種類の設定がデフォルトで用意されています。これをそのまま使うのでもいいですし、カスタマイズして使うことも可能です。
文字クラスの扱い
日本語の組版は、文字同士の間隔や位置が文字クラスによって違うというのがもっとも厄介な点でした。文字クラスごとの間隔を調整できる仕組みを用意することでこの問題をクリアしたのがInDesignです。
InDesignの組版の目玉とも言える文字組みアキ量設定ですが、問題もありました。それは、特定の文字がどの文字クラスに分類されるかをユーザーではコントロールできないというものです。
たとえば、漢字や仮名、数字などは文字クラスが明らかであり、指定し直さなければならないケースはまずないでしょう。ところが、記号類に関しては、括弧類や句読点類のほかに、区切り約物、分離禁止文字、前置省略記号、後置省略記号といったグループ分けがされており、どの文字がどの文字クラスに分けられるのかを把握していないと、思った通りの組版にならない可能性もあります。
特に問題なのが、見た目は同じなのに文字クラスが違う文字の存在です。文字についてのコーナーで「波ダッシュ」についての問題を取り上げました。この波ダッシュは、文字コードで定められている正規のもののほかに全角チルダと呼ばれる文字が使われており、システムによっては混同されてトラブルが生じる可能性があります。
正規の波ダッシュと全角チルダを含む文章をInDesign上で組んだ場合、多くの書体では文字の形に違いはありません。ところが、文字組みアキ量設定によっては文字の間隔に違いが出てくるのです。
正規の波ダッシュは「上記以外の和字」という文字クラスに属しています。一方、全角チルダのほうは「行頭禁則和字」という文字クラスに属しており、それぞれの設定に基づいて他の文字との間隔が決められます。つまり、「上記以外の和字」と「行頭禁則和字」の設定が異なっていれば、波ダッシュ、全角チルダと前後の文字との間隔も違ってくるわけです。
正規の波ダッシュはユニコードで「U+301C」に、全角チルダは「U+FF5E」に割り当てられています。InDesignはユニコードのポイントによって文字をそれぞれの文字クラスに割り振っているので、見た目は同じでも文字クラスが異なり、組版結果も違ってくることがあるのです。
CIDベースの文字組み
InDesign CS2から「CIDベースの文字組みを使用」という機能が新たに加わりました(「環境設定」→「組版」でアクセス)。このオプションがオンになっていた場合、U+301Cの波ダッシュであってもU+FF5Eの全角チルダであっても、同じように「行頭禁則和字」とみなされ、組版処理されます(ただしこの機能が動作するのはCIDフォントおよびCIDベースのOpenTypeフォントのみなので、MS明朝などには効かない)。
この機能は、ユニコードで文字クラスを振り分けるのではなく、CID番号で文字クラスを振り分けるというものです。そのため、字形が同じであり、同じCID番号を使う波ダッシュと全角チルダが同じ扱いになるわけです。ちなみに、InDesign CSのファイルをCS2で開いた場合、このオプションはオフになっています(おそらく互換性確保のためと思われる)。もちろん、開いた後で変更は可能です。
なお、このオプションで文字クラスが変わるのは同じCID番号のものだけではありません。OpenTypeフォントには、通常の大きなカギ括弧のほかに小さなカギ括弧(小カギ)がありますが、大カギと小カギではユニコード番号が違います(OpenTypeフォントの小カギには全角幅のもの(CID番号12070)と半角幅のもの(CID番号12123)があるがユニコード番号は同じ)。
InDesign CSでは、大カギは括弧類、小カギは「上記以外の和字」の文字クラスに分類されていましたが、「CIDベースの文字組みを使用」オプションをオンにした場合は、どちらも括弧類として扱われます。しかも全角幅の小カギも半角幅の小カギも同じ文字幅になり、大カギとまったく変わらない文字組みになるのです。
また、ユニコード番号が同じでCID番号が異なる文字の場合も、この機能で文字クラスが変わることがあります。OpenTypeフォントのクォーテーションマーク(‘ ’)やダブルクォーテーションマーク(“ ”)には、ユニコード番号が同じでCID番号が異なる複数の文字があります。「CIDベースの文字組みを使用」がオフの時はいずれも括弧類として扱われますが、オンにすると、文字によっては欧文扱いに変わります。
文字クラスを利用して文字の間隔をコントロールする仕組みを採用したことで、InDesignは高度な組版を手に入れました。ただし、フォントによって、コードポイントによって、さらに環境設定によって文字クラスが変わるということがユーザーの操作を複雑にしていることは否めません。
文字組みアキ量設定を使って組版を調整する以上、文字クラスについての認識を高め、トラブルのない作業を心がける必要があるでしょう。
(田村 2007.11.5初出)
(田村 2016.6.3更新)