フォントのフォーマットに気をつけよう
OCFからOTFまで
DTPでもっとも重要でしかもトラブルも多いのがフォントです。今回は、DTPで使われるフォントの変遷と注意するべき点についてあらためて考えてみましょう。
日本のDTPでは長い間、PostScriptフォントを使うというのが常識になっていました。PostScriptフォントは、Adobe社が開発したフォント形式で、パソコンとプリンタの両方に同じ名前のフォントを入れて使うというのが大きな特徴です。プリンタ用PostScriptフォントは高額で、しかも同じフォントがないと文字化けするなどトラブルも多かったのですが、それしかなければ使うしかありません。誰もがDTPとPostScriptフォントは切っても切れない関係にあると思っていました。
ところが、1998年にCIDフォントという新しいPostScriptフォントが登場し、さらに2001年にOpenTypeフォントがリリースされると、にわかにフォントのフォーマットに注目が集まるようになってきました。このデータはどのフォーマットのフォントを使っているかということが重要な情報になってきたのです。
フォント・フォーマットがやっかいなのは、環境によって特定のフォント・フォーマットが使えなかったり、違うフォーマットの同名フォントを知らずに使うことで文字組みが変わってしまうといった問題が起きることです。もともとDTPではフォントがらみのトラブルが付き物でしたが、フォント・フォーマットの乱立は混乱に拍車をかけました。
古い環境が少なくなってきたこともあって、最近は落ち着いてきましたが、過去のフォーマットのフォントを使ったデータが今なお残っている以上、トラブルの種は常に存在します。思わぬトラブルに見舞われることがないようにするには、フォントの種類をきちんと理解することが大切です。
まず、DTPで使われてきたフォントの種類を簡単にまとめてみましょう。従来からあるPostScriptフォントは、OCFフォントと呼ばれます。OCFとはOriginal Composite Fontの略です。
PostScriptの仕組みを作った際、Adobeはフォントの仕組みとしてType1というデータフォーマットを用意しました。Type1は1バイトの欧文フォント用のフォーマットであり、最大で256字までしか収録することができません。このフォーマットを使って日本語フォントを作るために、日本語の文字を256字ごとに小分けにし、それを合成して一つのフォントとみなす仕組みが作られました。これがOCFフォントです。
OCFフォントは、たくさんのType1フォントデータと、どこにどの文字があるかを記述したフォントファイルで構成されています。構造が複雑であり、しかも制約が多いことから新しいフォントフォーマットへの移行が図られ、もはや新たな販売は行われていません。
2OCFフォントの次にDTPの世界に登場したのはCIDフォントです。CIDフォントは、正式にはCharacter IDentifier-Keyedフォントと呼ばれ、文字を収録したフォントファイル本体と、CMapというファイルで構成されます。CIDフォントの各文字には固有のCID番号が振られており、CMapで文字コードとCID番号を参照することで文字を指定します。
CIDフォントは、CMapさえ取り替えればどんな文字コードにも対応することができるという柔軟性があり、多くの文字数を収録することができ、PDFに埋め込むことも可能です。2000年代は各メーカーから販売されていましたが、最近では使われることもかなり少なくなってきました。
21世紀になると、AdobeとMicrosoftが共同で開発したフォント・フォーマットOpenTypeが登場します。OpenTypeはTrueTypeをベースにしたユニコード対応のフォントであり、収録する文字数が従来よりも大幅に増加し、プリンタ側にフォントは不要で、WindowsでもMacintoshでも同じように使え、組版の機能も備えており異体字の切り替えができる、などの特徴があります。現在DTPでメインに使われているフォントであり、今後当分は主流であり続けるであろうフォーマットです。
最後にTrueTypeフォントについても触れておきましょう。TrueTypeフォントはパソコンでメインに使用されてきたフォントですが、Macintoshが主流のDTPでは使わないというのが常識でした。しかし、OCFフォントが使えないWindowsでDTPに積極的に利用されるようになり、今では出力環境も整っているため、抵抗なく使われています。
なお、OpenTypeフォントには、字形データ(アウトライン)がTrueTypeベースのものとPostScriptベースのものがあります。現在Windowsに搭載されているMS明朝などはTrueTypeベースのOpenType、Adobeやモリサワなどから出されているのはPostScriptベースのOpenTypeです。
既成の枠に囚われない新たなフォント
Adobe、Apple、Google、Microsoft、というIT業界を代表する4社が共同開発した新しいフォントが2016年に発表されました。それがバリアブルフォントです。
DTPで使われるフォントは、使用する場所や目的に応じて太さ(ウエイト)や斜体などさまざまなバリエーションが必要になってくるため、ユーザーはそれらの書体のバリエーションをフォントファミリーとして揃えなければなりませんでした。
一方、Webで使われるフォントは、閲覧する環境によっては正しく表示できるとは限らないという問題がありました。サーバ側のフォントを表示するWebフォントにしても、日本語だと容量が大きくダウンロードに時間がかかるといった点がネックになります。表現力豊かなWebページを作るために多くのフォントを使いたいのに使えないという状況があったのです。
バリアブルフォントは、フォントファミリーとして各バリエーションのデータを用意するのではなく、1つのコアな書体をベースに、ウエイトや文字幅、傾斜角などの属性をリアルタイムにカスタマイズできるフォントです。
たとえば、Adobe製品に付属しているAcumin Variable ConcentというバリアブルフォントをInDesign 2023で指定すると、Weight、Width、Slantという3つの属性が調整できるようになります。1つのフォントでウエイトや文字幅、傾斜をユーザーが自由にコントロールできるのです。
バリアブルフォントの可変可能な属性は「軸」と呼ばれ、標準では太さ、幅、イタリック、斜体、オプティカルサイズの5つがあり(1つの書体に5つの軸全部が用意されているとは限らない)、さらにオリジナルで他のカスタムな軸を設定することもできます。それぞれの軸は、上限値と下限値が設定されており、スライダで無段階に変化させることが可能です(イタリックはオンとオフの2段階)。つまり、1つのフォントファイルだけで、ウエイトやイタリック、そのほか装飾などのバリエーション豊富なフォントファミリーのような使い方ができるわけです。
バリアブルフォントはIllustratorとPhotoshopであればCC2018以降、InDesignは2020以降で使えます。CC2018以降のCreative CloudにはAcumin Variable Conceptなど数種類のバリアブルフォントが付属しており、Webなどで配布されているフォントも含めると欧文フォントはすでにかなりの数が出回っています。日本語書体はまだ少ないものの、AdobeとGoogleで共同開発した日中韓フォント「Source Han Sans/Serif Variable(源ノ角ゴシック/源ノ明朝)」(Googleからは「Noto Sans/Serif CJK Variable」というフォント名で提供)が無償で提供され、リリースされる書体は今後増えていくでしょう。ちなみに、Webで使う場合、軸の値はCSSで指定することが可能です。
最近になってAdobe製品でサポートされたフォントとしては、OpenType-SVG(カラー)フォントもあります。
SVG(Scalable Vector Graphics)フォーマットは以前からIllustratorでサポートされてきた画像形式で、XMLベースのベクターデータのためテキスト検索に対応するなど、もともとWebと相性が良い形式でした。2016年にSVGで字形を表現するOpenType-SVGフォントが登場し、Adobe製品でサポートされると、欧文書体を中心にさまざまなフォントが登場しています。
OpenType-SVGフォントの特徴は、1つの文字の中に複数のカラーやグラデーションを表示できるという点です。通常のフォントでは、1つの文字に指定できるのは単色かグラデーションだけでしたが、たとえばCreative Cloudに付属している「Trajan Color Concept」はグラデーションやシャドウが複雑に組み合わされた文字が収録されており、字形パネルを使えば用意されているさまざまなカラーをその文字に適用することができます。また、同じくCreative Cloud付属の「EmojiOne」にはカラフルで多彩な絵文字が含まれ、さらに文字を組み合わせるだけで簡単に合成し、色を変更することが可能です。
OpenType-SVGフォントは、WebにおけるOpenTypeフォントの可能性を広げるものとして期待できます。ただし、Webブラウザの側は、FirefoxとEdgeがOpenType-SVGをサポートしたものの、Chromeは対応していません(ChromeはGoogleが開発に関わるフォントフォーマットCOLRのサポートを推し進めている)。
Opentype-SVGフォントとCOLRフォントは機能や役割がかぶるため、どちらが優勢になるか判断が難しいのですが、普及すればWebにおけるフォントの活用がより柔軟になっていくでしょう。
環境や用途によって使い分ける
単にデータを作るだけであればどのフォントを使ってもかまいませんが、DTPでは後工程や既存データとの整合性が重要であり、それによってフォントフォーマットも制約されることになります。
たとえば、OCFフォントで作られた古いデータをそのままの形で出力したい場合、同名のCIDやOpenTypeフォントに置き換えると文字組みが変わる可能性があるため、可能であればOCFフォントの環境で開いて出力するべきでしょう。フォントメーカーでは、フォーマットが変わるたびにデザインなどを少しずつ変更しており、ちょっと見は同じでも文字のリフローなどが起きる危険があるのです。
ただし、OCFフォントを使える環境はかなり限られています。原則としてMac OS XやWindowsでは使えません。また、InDesignやIllustratorなども最近のバージョンはOCFフォントをサポートしていません。
OCFフォントはPDFに埋め込むこともできないため、PDF出力を考えるのであれば、文字組みが変わってしまう危険を冒してでもOpenTypeフォントに置き換えるべきです。PDFの出力にこだわらない場合でも、データの修正がある場合はやはりOpenTypeへの置き換えを考えるべきでしょう。
ちなみに、欧文組版用に長年使われてきたType1フォントも、2023年以降Adobe製品でサポート外になりました。
古いデータの場合、アプリケーションの問題もあります。QuarkXPress 4.xや3.3とOCFフォントを使った過去のデータは膨大に残っていますが、そのまま出力するのは環境的に厳しいのが現実です。仮にアプリケーションがそのまま使えたとしても、フォントをOpenTypeに置き換えるのであれば、現在使われているアプリケーションで作り直すべきでしょう。
CIDフォントは、一時期広く使われていたフォントであり、OpenTypeが普及した今でも使われているデータが散見されますが、Windowsで使えず、2019年以降のAdobe製品でもサポート外になるなど将来は保証できません。利用できる環境があったとしても新規データで使うのは避けるべきです。
また、OpenTypeフォントは従来よりも多くの文字を収録できますが、収録されている文字数はフォントによってさまざまです。そのため、フォントを変更すると、文字がなかったということもありえるので注意しなければなりません。
(田村 2006.2.13初出)
(田村 2023.3.6更新)