InDesignにおける欧文組版の基礎
ジャスティフィケーション設定
経済がグローバル化してくると、英語で書かれた文書を目にする機会が増えてきました。日本に本社がある企業でも、世界で活動するとなると英語での広報活動や英文資料を準備することも必要になってきます。
DTPの現場にも英語など欧文の仕事が持ち込まれることが珍しくなくなってきました。もちろん、活版の時代と違い、DTPアプリケーションであれば日本語と同様に欧文の組版にも対応することができます。
欧文の組版を行う場合、日本語とは使う機能がかなり違うので戸惑う人がいるかもしれません。たとえばInDesignには数多くの組版機能がありますが、和文と欧文とでは必要な組版機能の種類も設定の内容も大きく異なります。
「文字組みアキ量設定」は、多彩な文字種を駆使する日本語組版にとって便利な機能ですが、欧文組版だと基本的に使えません。欧文フォントではこの設定がほとんど役に立たないのです。
さらに、欧文組版では意味がない機能も少なくありません。たとえば、フレームグリッドは日本語の組版に便利ですが、欧文フォントだとフレームグリッド設定で書体の指定すらできず、プレーンのテキストフレームに対し機能的なメリットがありません。また、縦組みがないので縦中横なども無意味です。
では、欧文をレイアウトする際にはどのような機能を使えばいいのでしょうか。文字組みアキ量設定は日本語の文字間隔を調整する機能です。欧文組版でそれに匹敵する機能と言えるのが「ジャスティフィケーション」設定です。
ジャスティフィケーション設定は、行末を揃える組版での文字間隔やスペースをコントロールするための機能です。欧文はどこでも改行できるわけではなく、決まったところでしか切れません。そのため、行末を揃えるには文字間のアキや単語間のアキで調整するしかないのです。ちなみに欧文組版の場合、行末を揃える組版ばかりではありません。あえて行末を揃えないものもよく見られますが、その場合は文字間隔やスペースは一定でかまいません。
InDesignのジャスティフィケーション設定には、「単語間隔」「文字間隔」「グリフ幅拡大/縮小」のそれぞれで「最小」「最適」「最大」をパーセントで指定する欄があります。
単語間隔は、単語と単語の間のスペースをどの程度にするかという設定です。100%が一応標準のスペースとなりますが、これはフォントごとに違ってきます。標準よりも広めにしたければ100%以上、狭くしたければ100%以下の数値を指定します。なお、ここで指定した「最小」「最大」の値はジャスティファイでスペースを調整する際の上限・下限になりますが、「最適」の値は、ジャスティファイされた行だけでなく、行末を揃えない行での単語間隔にも適用されます。
文字間隔は、単語内の文字の間隔を指定するもので、いわゆるベタ組みが0%となり、詰めたい場合はマイナス値、広げたい場合はプラスの値を指定します。「最小」「最適」「最大」を全て0%にしておけば、ジャスティファイで間延びするケースでも単語内の文字間隔を維持することができます。
グリフ幅拡大/縮小は、行の文字が詰まった場合、広がった場合に文字の幅で調整するというものです。間延びする場合に文字幅を広げることで間延びを防ぐことができますが、あまり使わない機能かもしれません。
ジャスティフィケーションの設定には、このほかに「自動行送り」「1文字揃え」「コンポーザ」があります。自動行送りは、文字サイズを基準に行送りを設定するための割合を指定、1文字揃えは行に1つの単語しか入らない場合に、単語をどう配置するかの設定、コンポーザは、4種類のコンポーザから適切なものを選びます。欧文の場合「Adobe欧文段落コンポーザ」と「Adobe欧文単数行コンポーザ」がありますが、1行ごとに調整を行う単数行コンポーザを選んだほうがいいでしょう。
ハイフネーション
欧文組版でジャスティフィケーションと並んで重要な設定がハイフネーションです。組版設定のことを欧米ソフトではよく「H&J」という呼び方をしますが、これは「Hiphenation & Justification」の略です。それだけこの二つが大切なのです。
ハイフネーションの設定は、ジャスティフィケーションと同じく段落パレットのメニューから呼び出します。なお、InDesignで自動のハイフネーション処理を行うためには、文字パレットやスタイルの設定で、InDesignに内蔵されているハイフネーション辞書に適合した「言語」を指定しなければなりません。InDesignは「言語」の指定によって辞書を選択し、それによってハイフネーションを行っているようですが、日本語の辞書は用意されていないので、「言語」がデフォルトの日本語のままだと自動ハイフネーション処理は行われません。
ハイフネーションの設定では、単語をハイフンで分ける条件を細かく指定し、さらにハイフネーションの頻度をスライダで指定することもできます。たとえば、4文字未満の単語にはハイフンを入れないとか、最後の1文字だけ次行にしたりしない、あるいは3行以上ハイフンを続けないなど、辞書にないルールを加えることが可能です。
辞書が用意されていても、全ての単語のハイフネーションに対応しているわけではありません。辞書にない単語でハイフネーション処理をさせたい場合は、テキストのハイフンを入れたい場所にカーソルを入れ、メニューから「書式→特殊文字の挿入→任意ハイフン」を実行するか、「Ctrl」+「Shift」+「-」(Windows)、「Command」+「Shift」+「-」(Macintosh)を押します。
また、ユーザー辞書にハイフン付きの単語を登録し、自動ハイフネーション処理させることもできます。欧文辞書を編集する場合、InDesign CS2だと「編集→欧文スペルチェック→欧文辞書」で言語を選択し、単語を登録します。その際、ハイフンが入る部分は「~」(チルダ)を入れます。
辞書は、ドキュメントに埋め込むことができます。また、辞書を単語リストとして書き出せば、別の環境でも同じ辞書を使って作業することが可能です。ハイフネーションは欧文組版におけるきわめて重要なポイントであり、辞書を鍛えていくことも組版にとって大切な作業と言えます。
(田村 2006.12.4初出)
(田村 2016.6.3更新)