PDFを使ったデータのプリフライト
プリフライトの重要性
最近のDTPソフトには豊富な機能が備わっており、DTPソフトの使い方さえ覚えれば、データを作るだけなら誰にでもできます。ただし、DTPの場合、ただ単にデータを作ることよりも、それが正しいデータかどうかということのほうがはるかに重要です。
DTPデータは最終的にRIPで解析・処理され、イメージセッタやCTPのプレートセッタで版を出力、さらに、版を元に印刷機で印刷が行われ、製本されます。この一連の工程をトラブルなくこなしていくためには、決まったルールに則った正しいデータが作られなければなりません。
DTPのデータ制作に熟練していけば、DTPのルールが体に染み付いて、変なデータを作ることはなくなっていきますが、それでもうっかりミスなどの危険はなくなりません。また、画像の解像度や使用フォントの種類など、出力環境などによってデータ制作のルールも変わってくるため、ベテランのオペレーターでも勘違いしてルールと食い違うデータを作ってしまう可能性も少なからずあります。
ルールに反したデータを作ったとしても、ゲラを見ただけではデータの間違いを確認することはなかなかできません。ゲラで確認出来ないデータの問題を発見し、修正するためには、データそのものをチェックするしかないのです。
データを開き、しらみつぶしにチェックしていけばデータに潜む問題をすべて発見することもできるでしょう。しかし、効率が求められる制作現場ではそんなに悠長なことはやっていられません。そこで登場してきたのがプリフライトソフトです。
プリフライトとは、飛行機の出発直前に行われるチェックのことを指します。プリフライト・ソフトは、データの出力直前にきちんと出力できるかどうかを確認するソフトです。
DTPのプリフライト・ソフトとしては、「FLIGHTCHECK」や「Preflight Pro」といった製品がよく使われていましたが、いずれもOSや対応ソフトなどの環境が古く、最新のDTPでは使えないものになってしまいました。
では、これらのソフトに代わるソフトが登場しているのかというと、実はそうでもありません。DTPソフトの中には、InDesignのようにプリフライト機能が用意されているものもありますが、画像のリンクや解像度、カラースペース、テキストのリフローなど比較的基本的なチェックが主です(それでも制作の途中過程では十分と言える)。CTP化が進んだことで、データには従来よりも高い信頼性が求められるようになってきているのです。
PDFを使ったプリフライト
最近はPDF入稿が一般的になってきました。この場合、入稿されるPDFをきちんと調べることができれば、ほとんどのトラブルは未然に防止することができます。
もちろん、PDF入稿でなくてもPDFによるチェックは有効です。PDFはPostScriptをベースにした技術であり、PostScript出力のシミュレーションとして利用できます。PDFを詳細にチェックすることで、従来のDTPデータのプリフライトチェックの代用ができるわけです。
従来のプリフライトチェックは、ドキュメント・ファイルとそれに関連しているリンク・データやフォントなどをチェックしていました。PDFは全てのデータが一つのファイルに納まっているので、チェックも簡単にできます。
PDFをチェックするソフトとしては、Acrobatの編集プラグインであるPitStopが昔から有名でした。PitStopでは、「PDFプロファイル」という設定ファイルを使い、それに則ってPDFデータのチェックや編集などを行います。PitStopにはあらかじめ多くのPDFプロファイルが用意されていますが、ユーザーが自分で新たなPDFプロファイルを作り、他のユーザーと共有することも可能です。
Adobe社も、Acrobat 6になってプリフライト機能を新たに搭載しましたが、PitStopをかなり参考にしたようで、よく似た仕組みを用意しました。Acrobatのプリフライト機能でも、プロファイルという設定ファイルを使います。
使い方としては、チェックしたいPDFファイルを開き、プリフライト機能のウインドウでプロファイルを選び、実行するだけです。後は、設定に従って自動的にチェックが行われ、結果が表示されます。
問題箇所は、結果画面で問題箇所を指定するとドキュメント上の該当箇所が赤い点線で囲まれるので簡単に特定できるようになっています(プリフライトウインドウの別画面で表示させることもできる)。また、結果レポートをPDFやテキスト、あるいはXMLに書き出すことも可能です。
プロファイルは、あらかじめ用意されているものを使ってもいいのですが、仕事によっては十分でないこともあります。そこで、ユーザーが自由にプロファイルを作成・編集することができる機能も備わっています。
プロファイル(ユーザーが作るプロファイルをカスタムプロファイルと呼ぶ)の編集画面では、PDFのバージョンやサイズ、カラー、画像の解像度、フォントなどさまざまなチェック項目があり、簡単に設定できるようになっています。
ただし、より詳細なチェックを行うためには、新たなチェック項目を作ることも必要です。Acrobatには、テキスト、画像、カラー、ページ、文書など、34のグループに分けられた膨大なプロパティが用意されており、このプロパティを使って自由にチェック項目を作り、指定することができます。
たとえば、「カラー」グループに「オブジェクトは黒のみを使用」というプロパティがあります。このプロパティの横の追加ボタンをクリックすると、新しいチェックにプロパティが取り込まれ、さらに「True」「Trueでない」を選べるようになります。また、「オブジェクトが使用するシアンの割合(%)」というプロパティを追加すると、シアンの割合を数値で指定できるようになるなど、プロパティの内容に合わせて設定をコントロールすることが可能です。
1つないし複数のプロパティを組み合わせて1つのチェック項目を作ることができます。求められるPDFの要素に合わせてさまざまなチェック項目を設定し、それを「プロファイル」として保存することで、PDFのプリフライトがボタン1つでできるようになるわけです。
運用環境を作るのは簡単ではありませんが、いったんプロファイルを作ってしまえば、後はそれを使うだけで常に正確なチェックが可能になり、その効果は絶大です。プロファイルは書き出して他のマシンにもっていくこともでき、また、「ドロップレット」というバッチファイルを作れば、Acrobatが起ち上がっていなくてもPDFをドロップレットにドロップするだけで自動的にファイルを検証、結果を表示・ファイルに出力するということも可能です。
PDFでなく通常のデータで入稿する場合、データチェックのためだけにPDFを書き出すのは面倒だと思われるかもしれません。しかし、トラブルのないデータを作るのは制作側にとっても重要な義務です。その意味でも、今や誰でも持っているソフトであるAcrobatを利用してデータのチェックを行うこの方法は、もっと活用されていいのではないでしょうか。
(田村 2006.9.25初出)
(田村 2016.11.1更新)