貼り込み画像のポイント
トラブルが尽きない画像の貼り込み
DTPが普及して一番便利になったのは写真や図版の扱いではないでしょうか。以前であればフィルムを使った複雑な処理が必要だった写真も、DTPだと画像データを貼り込むだけになりました。ただし、デジタル・データ上で全ての作業が完了するようになったことで、かえってトラブルの元を抱え込んでしまったと言えないこともありません。
画像データの貼り込みは、DTPソフトだけでなく、ワープロ・ソフトや年賀状ソフトなどさまざまなソフトでサポートされています。しかし、画像の貼り込みがサポートされているということと、貼り込まれた画像が想定通りきちんと出力されるかどうかということは別問題です。
多少問題があるデータもインクジェットプリンタであればなんとか出力できるかもしれません。しかし、DTPで求められるのは、CTPなどで高解像度の分版出力が可能かどうかということです。
DTPが始まって以来、画像は常に出力トラブルの原因の上位を占めてきました。アプリケーションの機能が強化され、マシンの性能も大幅に向上した現在でも、トラブルを避けるため画像の扱いには十分に注意しなければなりません。ということで、今回は画像貼り込み時のトラブルについて見ていきます。
Illustratorへの画像貼り込みの注意点
日本では、単なる図版作成のみならず、ペラ物のレイアウト・ソフトとしても活躍するIllustrator。画像の貼り込みも得意分野です。DTPでIllustratorに貼り込む画像の形式は、これまでEPSかTIFFというのが一般的でしたが、最近はPSDやJPEG、PDFも使われるようになってきました。
Illustratorドキュメントに画像を貼り込む場合、問題になるのが埋め込みにするかリンクにするかということでしょう。埋め込みとは、画像データをIllustratorのドキュメント・データに完全に取り込むこと、リンクとは実際の画像は取り込まずにリンクし、プレビューデータだけを取り込むことを指します。
もちろん、どちらを選んでも出力は可能です。しかし、場合によってはトラブルが起きる可能性があります。
特色を含むEPS画像をIllustratorに埋め込みで貼り込んだ場合、以前のバージョンだと貼り込んだ時点で特色はCMYKに分解されてしまい、特色をそのまま出力するには、リンクで貼り込むしかありませんでした。現在のバージョンでは特色DCSファイルは埋め込みで配置できなくなっています。また、PSDやPDFの場合は、埋め込みにするとCMYKと特色が分離し、それぞれ別のデータとして埋め込まれます。
また、リンクで画像を貼り込む場合、貼り込まれたIllustratorのファイルをEPSやAI形式で保存し、さらにInDesignなどに貼り込むというワークフローだと、InDesignのチェック機能がEPSやAI中の画像にまで及ばず、貼り込んだ元の画像がパッケージ収集やプリフライトで漏れてしまうこともあります。
もっとも、AI形式で保存した場合、(保存時のオプションで「PDF互換ファイルを作成」にチェックが入っていれば)画像を含む一体化したPDFがAIデータ中に丸ごと含められます。そのため、AIファイルを開いて修正したりしないのであれば、元の画像ファイルがなくても出力することが可能です。ちなみに、EPS形式で保存する場合、保存オプションで「リンクファイルを埋め込む」にチェックを入れると、リンクから埋め込みに一括して変更し保存できます。
とはいえ、最終的にレイアウトソフトに配置して出力するのであれば、画像は、Illustratorではなく、直接レイアウトソフトに貼り込んだ方がトラブルの危険が少ないというのは間違いありません。
InDesignでの画像の貼り込み
他のレイアウトソフトと同様、InDesignでは画像をリンクで貼り込むことになります。InDesignはEPS、TIFF、PSD、JPEG、PDFなどさまざまな形式をサポートしています。貼り込まれた画像は、元データではなく画面表示用データが配置されますが、リンクパネルを使ってリンクされた元データを埋め込むこともできます。ただし、48KB未満の画像を貼り込んだ場合は画面表示用データではなく最初から元データが配置されます。この場合、リンク情報は保持されますが、リンク画像がなくなっても問題なく元データを出力することができます。
過去のバージョンでは、PDFに書き出すとモノクロ2階調のEPSファイルが8bitに変換されてしまう、EPSをインライングラフィックとして貼り込むと自動的にオーバープリントになってしまう、などといった不具合もありました。現在のバージョンでは今のところ画像に関する大きな不具合はないようですが、今後新しいバージョンが登場するたびに何らかの問題が発生するリスクはついて回るでしょう。
DTPで使われる画像の作成方法がフィルムのスキャニングからデジタルカメラによる撮影に移行し、画像処理のあり方や求められるものが変わってきました。以前であれば使用サイズはもちろん、場合によっては印刷機や用紙など最終的な形を想定してフィルムを分解スキャンしデジタル化していたのが、今や撮影するだけでデジタルデータとなり、Photoshopがあれば簡単にCMYK画像になります。直接デジタル化されることで、「最終的な形に合わせてデータ化する」という工程が飛ばされるようになってきたわけです。
InDesignに貼り込む画像も、撮影したままのデータが入稿されることが多くなってきました。そうなると、どこで画像を最適化するかというのが問題になります。今までのやり方であれば、いったん未処理画像をそのまま貼り込んで校正、レイアウトが確定したら補正とリサンプルを施した画像に差し替えるということになるでしょうが、リサンプルやシャープネス処理はしない、補正も必要最小限という案件も結構増えているようです。
商品カタログなど画像が多数掲載されるような印刷物で、適切にリサンプリングされていない巨大データを大量に貼り込めば、InDesign上の作業が重くなり、状況によってはプリンタ出力やPDF書き出し時にうまく書き出せないといったトラブルが起きる可能性も出てきます。また、リサンプルができなければ解像度によって効果が変化するシャープネス処理も掛けにくくなります。
こういった事態を避けるには、やはりレイアウトが固まった段階で画像のリサンプル処理を行う工程を挟むべきでしょう。単純な作業であっても数が多いと結構な時間を取られますが、特別なツールがなくても効率化を図ることは可能です。たとえば、リサンプリング処理の倍率はInDesignのパッケージ機能で書き出すレポートに記載されている「編集後のppi」から算出できます。リサンプルはPhotoshopで行うとして、その際、シャープネス処理も行うのであれば、リサンプル+シャープネスをアクション化し、解像度設定のモードコントロールをオンにしておき、倍率を次々に入力しながらバッチ処理すると効率的です。もちろん、個別に細かく調整する必要がない画像限定になります。
Wordに貼り込む画像
DTP現場であっても、DTPソフトだけでなく、例えばWordでデータを組むといったことが全くないわけではありません。Wordにも組版機能がありますし、画像の貼り込みもサポートしているので、効率は別としてそれほど大きな問題はないように思えるかもしれませんが、カラーや解像度については注意が必要です。
Wordに画像を貼り込む場合、通常はTIFFやJPEG、PNGといった画像を使うことになります。DTPで一般的なPSDには対応していません。PDFは、OLEオブジェクトとしてであれば取り込むことができます。ちなみに、EPS画像は、以前はインポートフィルタがサポートされていましたが、セキュリティの問題のため2017年以降のWindows版では表示できなくなっているようです。
WordではCMYK画像の貼り込みも一応サポートされています。しかし、WordにCMYKのTIFFやJPEGを貼り込んでも、貼り込まれた段階で画像はCMYKからRGBに変換されてしまいます。OLE経由(リンク・埋め込みのいずれも)でPDFを取り込んだ場合も同様です。
もちろん、CMYKからRGBに変換された画像データでもRIPの機能を使ったりAcrobatなどで再びCMYKに分解して出力することは可能ですが、CMYK→RGB→CMYKという変換を経ることで色が変わってしまうのは避けられませんし、墨ベタが4版で出力されるようなこともあり得ます。そのため、Wordには、CMYKに分解される前のRGB画像を貼り込むというのが原則です。DTPデータと内容が同じWordデータを作成するといった仕事の場合などは工程に十分配慮する必要があります。
また、Wordに画像を貼り込み、保存する際、画像はWordの設定(ファイル-オプション-詳細設定-イメージのサイズと画質-既定の解像度)に応じてリサンプルされます。大容量の画像を貼り込んでファイルが巨大化してしまうのを防ぐという意味では役に立つ機能ですが、DTP用途となると問題になりやすいので注意が必要です。なお、「ファイル内のイメージを圧縮しない」にチェックが入っていれば、画像はリサンプルされません。
DTPソフトとは想定される用途の異なるWordでは、画像の扱いも一般的なDTPソフトと異なるため、慣れないと思わぬトラブルに見舞われる可能性があります。Wordでの作業の前に、少なくとも基本的なポイントは押さえておく必要があるでしょう。
(田村 2006.8.21初出)
(田村 2025.5.26更新)