サイトアイコン InDesign(インデザイン)専門の質の高いDTP制作会社―株式会社インフォルム

黒のインクを知ろう

黒のインクを知ろう

黒をオーバープリントにする理由

カラーの印刷物でも、本文の文字はスミベタ、つまり黒100%で表現するというのが一般的です。これは、紙の白地に配置するのであれば黒が一番見やすいということだと言ってもいいでしょう。

色というのは光の波長であり、インクは特定の波長の光を透過し、他の波長を吸収することで色を表現します。インクを透過した光が紙で反射し、さらにインクを透過して出てくるのが色になるのです。

マゼンタインクは赤い光を透過し、緑など他の光を吸収、シアンインクは青い光を透過し、赤など他の光を吸収します。さらに、全ての波長の光を透過すると透明インクになって紙の色がそのまま現われ、全ての波長の光を吸収すれば黒のインクになります。

白の紙は全ての光を反射し、黒のインクは全ての光を吸収するため、白い紙には黒インクの文字がもっとも見やすいというわけです。

黒のインクは全ての光を吸収するため、黒のインクを印刷した場合は、下にどんな色があっても黒インクのところで光が吸収され、他の色が現われないことになります。つまり、黒のインクは他のインクを覆い隠すことができるわけです。

ところで、インクはそれぞれの版を元にして印刷されます。4色のインクであれば4枚の版を使って印刷するのですが、その際、4つの版の位置がピッタリ合わないと、インクの位置がずれてしまいます。特に、それぞれの色のオブジェクトがピッタリ隣り合わさっているようなレイアウトでは、そのズレが空白となり、下の紙の白が出てしまうことになります。これを版ズレと言いますが、オブジェクトの境界部分でそれぞれの色が少しだけ重なるようにすればこのトラブルを解消することができます。この処理をトラッピングと言います。

では、どんな場合でもトラッピングが行われるかというとそうではありません。トラッピングしないケースも少なくないのですが、特に重要なのがスミベタの場合です。先ほど述べたように、黒インクは他の色を覆い隠すことができるため、境界線部分だけを重ねるなどということをせず、下に他の色があってもかまわずそのまま黒を乗せる処理、つまりオーバープリントが行われるわけです。

黒をオーバープリントすることにすれば、下のオブジェクトがシアンでもマゼンタでも気にせず黒を使ってレイアウトできます。現在、日本ではスミベタはオーバープリントするのが“常識”となっていますが、これはそれだけ便利だということでしょう。

黒のオーバープリントの限界

とはいえ、黒のオーバープリントも万能ではありません。黒は光を透過しないと言いましたが、全く透過しないということではありません。ある程度は通すため、実際には下の色が少し透けて見えてしまうのです。それでも、重なった部分がそれほど大きくなければまず問題はないのですが、他の色にスミベタを広い面積で乗せると、明らかに下の色の影響が出てきます。スミベタの比較的大きなオブジェクトを使う場合は、下にどんな色があるかを確認するほうがいいでしょう。スミベタオブジェクトをオーバープリントしないようにすることはソフト上でも指定できますが、濃度をベタ100%から99~95%程度に変更しておけばさらに安全です。

なお、黒インクの不透明度はメーカーによっても違ってきます。日本のインクは不透明度が高く(つまり光をあまり透過しない)、他の色を覆い隠す力が強いのですが、欧米で使われている黒インクは光を比較的透過してしまうものが多く、日本と同じようにスミベタをオーバープリントで使ってしまうと、思わぬ色が出てしまう可能性があります。

また、スミベタ、つまり黒100%であればいいのですが、黒の濃度が低くグレーの場合は、黒の網点の間から他の色の網点が見えるので当然ながら色が変わってしまいます。当たり前だと思われるかもしれませんが、現実には黒のアミにオーバープリントが掛かっているというデータを少なからず見かけます。おそらく、Illustratorでオーバープリント指定されたスミベタを作り、濃度を下げるといった作業をしたためにそうなったのでしょう。出力サイドでは、RIPでスミベタ以外はオーバープリント指定を解除するというのが一般的になっていますが、こういったデータが横行する以上やむを得ない対処でしょう。

黒インクと掛け合わせの黒の違い

カラーマネージメントの仕組みでは、CMYKのようなデバイスに依存する色をCIE L*a*b*のようなデバイスに依存しない絶対的な色空間で定義することで、色のコントロールを行います。

これによって異なる色空間での色の統一が可能になるわけですが、CIE L*a*b*の値が同じであれば色が完全に同じになるというわけではありません。

シアン、マゼンタ、イエローは色の三原色と呼ばれるだけに、この3色を掛け合わせることであらゆる色を表現します。さらに、3色をそれぞれ適切な量だけ混ぜ合わせれば(3色同じ量ではない)無彩色のグレーや黒も表現できることになります。つまり、黒インクを使わずに黒インクを使った場合と同じ色が出せるという理屈ですが、現実の印刷では理屈通りにいくとは限りません。

たとえば、CMYの3色だけで表した色と、CIE L*a*b*で同じ数値になるようにK成分を入れてその分他の色を減らした(いわゆるGCR処理)分版を行った色を印刷して見比べてみると、違いが出てくることがあります。

黒インクは不透明度が高いため、他の色を隠してしまいます。もちろん、CIE L*a*b*の値が同じであれば同じ色になるはずですが、ドットゲインが変動して黒インクの濃度が上がったり下がったりすれば、その分他の色を隠す度合いが変わります。ドットゲインが大きければ彩度は下がるのです。一方、他の色の掛け合わせでは、ドットゲインが変動しても不透明度が黒インクのように高くなるわけではないので、それによって彩度が黒ほど変動しません。

ドットゲインは中間調で大きくなるので、黒の濃度が低ければドットゲインの影響による彩度低下も目立たないのですが、ある程度以上高い場合は、ドットゲインの影響をかなり受けることになります。

カラー印刷において、黒はさまざまな目的で使うことができる便利なインクですが、使い方をよく考えないとトラブルが生じることがあるので注意する必要があります。

(田村 2009.6.22初出)

(田村 2016.11.26更新)

モバイルバージョンを終了