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DTPの基本フォーマットになるPDF/X(其の一)

DTPの基本フォーマットになるPDF/X(其の一)

PDFの問題

今や電子文書フォーマットとしてデファクトスタンダード的な存在になったPDF。DTPの世界では当初、校正データの配信用くらいにしか使われてきませんでしたが、徐々に出力用フォーマットとしても利用されるようになり、最近はむしろ入稿フォーマットの主流になってきたようにも思われます。

DTPデータを出力する時のトラブルとして多いのが、文字化けや文字抜け、本画像の代わりにアタリやプレビューの低解像度画像が出力されるといったものです。

これらのトラブルは、制作と出力での環境の違いやデータの受け渡しの不備によって起きます。そこで、環境に依存せず、さまざまな部品のデータがすべて内包されているPDFを入稿し、それを出力するようにすれば、こういったトラブルは防げるわけです。

ただし、PDFであればどんなデータでも問題ないというわけではありません。

PDFは色々な用途で使われるフォーマットであり、作り方次第でそれぞれの用途に合ったPDFを作ることができます。逆に言うと、作り方によっては、印刷に向かないPDFになることもあるわけです。

PDFは、いったん出来上がると作り変えるのが困難です。印刷に適さないPDFが入稿された場合、出力サイドでAcrobatやPitStopを使って編集・修正しようとしても適切なPDFにできない可能性があります。そもそも、渡されたPDFをさらに修正しなければ使えないということでは何のためのPDF入稿か分かりません。

印刷に向いているPDFを作れば問題は解決するわけですが、そのためにはどのようなPDFが印刷に適しているのかという点で関係者間に共通の認識がなければなりません。

この、印刷に適したPDFというものを規格としてまとめたのがPDF/Xです。

PDF/Xとは何か

PDF/Xを考えたのは、アメリカのDDAP(Digital Distribution of Advertising for Publications) Association(出版広告デジタル配信協会)という非営利団体です。

広告データのネットワーク送稿が進んでいるアメリカでは、データの信頼性が以前から重要なテーマになっていました。2001年、そのためのデータフォーマットとしてTIFF/IT-P1とともに提案されたのがPDF/Xです。

PDF/Xは現在では印刷用PDFとしてISO規格にもなっており、世界中どこでも通用するフォーマットになっています。最近はAcrobatやInDesignなどPDFを生成するソフトで簡単に作ることができるので、日本でも一般に使われるようになってきました。

なお、PDF/Xといっても、普通のPDFと違うわけではありません。PDFの中で、特定の条件をクリアしたものをPDF/Xと呼んでいるわけです。

では、PDF/Xであるための条件とはどういったものでしょうか。

PDF/X-1aの仕様

PDF/X規格には1、1a、2、3、4といったようにいくつかのバージョンがありますが、入稿の際に使われるPDF/Xというと一般にPDF/X-1aとPDF/X-3、それに2008年に正式に規格化された4の3つになります(PDF/X-4については別稿『あらためて考えるPDF/Xの出力』で解説)。ちなみに、PDF/X-1は1aと違ってOPIが可能なもの、PDF/X-2は印刷データの部分的な交換のためのガイドラインです。

まずPDF/X-1aから見てみましょう。規格としてPDF/X-1aに求められる主な条件としては

・色:CMYKおよび特色
・フォント:埋め込み
・画像:実画像
・OPI:不可
・メディアサイズと、仕上がりサイズあるいはアートサイズを定義
・トラッピングの有無を記述する
・印刷条件(または出力プロファイル)を指定する
・透明効果は不可

といったものがあります。特に注目すべきなのは、色がCMYKおよび特色(グレースケールもOK)しか使えないという点、透明効果は不可という点でしょう。

たとえば、RGB画像が一つでも含まれていればPDF/X-1aではありません。また、透明効果が使われているデータはPDF/X-1aに書き出す際に透明効果オブジェクトが分割・統合されることになります。このことから、PDF/X-1aであれば、出力時に正しく分解できないといったトラブルはなくなるということが言えるでしょう。

ただし、分解できるからトラブルが防げるとは一概に言えません。グレースケールのつもりがCMYKだったとか、特色のはずがCMYKになっていたなど、データ内容に起因するトラブルは起きる可能性があります。“PDF/Xだから安心”と考えるのは早計です。

ちなみに、PDF/X-1aには、最初に作られた2001の他に、2003というリビジョンがあります。2001と2003の違いは、2001がPDF 1.3(PDFにはバージョンがある。1.3はAcrobat 4以降でサポートされている)限定であるのに対して、2003はPD-F 1.4(Acrobat 5以降でサポート)がベースになっているという点です。ただし、PDF 1.4で許容されている「透明効果」はやはり使ってはならないことになっています。もちろん暗号化なども不可です。

PDF/X-3の仕様

PDF/X-1aとともに出力用PDFとして期待されていたのがPDF/X-3です。

このバージョンは、文字の埋め込みやトラッピングの有無などの仕様はほとんど1aと同じですが、色について、CMYKおよび特色のほかに、デバイスに依存しない色を使うことができるというのが大きな違いです。

デバイスに依存しない色とは、CIE L*a*b*データやICCプロファイルが付加されたデータのことを意味します。CIE L*a*b*データはそれほどないでしょうが、ICCプロファイル付きのRGBデータは、最近はDTP現場でもかなり流通しています。

カラーマネージメントの考え方から言えば、ICCプロファイルが付加されたRGB画像であっても、正しくCMYK分解して出力することが可能であり、問題はないということになります。しかし、日本の現状では、最終出力工程におけるカラーマネージメント出力はほとんど行われておらず、全工程の意思統一がない状況ではトラブルの元と言えます。そのため、PDF/X-3は、今のところ日本ではほとんど使われていません。

PDF/Xの限界

PDF/X-1aは、印刷のためのPDFにはどのような条件が必要かを考えて作られた規格であり、世界中で互換性があるという点でも優れています。ただし、実際にCTPなどで出力しようとした場合、PDF/Xで決められた条件だけではトラブルを完全に防ぐことはできません。

たとえば、PDF/Xでは画像の解像度については条件が指定されていません。これは、仕事や印刷形態、国などによって必要な解像度が違ってくるということも理由でしょうが、このままだとプレビュー画像だったのにそのままパスして印刷されてしまったということも起こりかねません。

要するに、PDF/Xは標準的な“規格”としては十分であるものの、個別の案件で見るとまだ不十分なのです。PDF/Xからさらに条件を絞り込んだPDF/X-Plusというものも登場しましたが、日本では普及しておらず、印刷用データの流通という点ではいまだに課題が残されたままと言えるでしょう。

(田村 2006.2.6初出)

(田村 2016.11.1更新)

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