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利益最大化を見据えた電子書籍戦略

利益最大化を見据えた電子書籍戦略

紙で売れなかった本は電子化しても売れない?

Kindleが普及する以前は、アメリカでも電子書籍に反対する出版社は少なくありませんでした。彼らが抱いていた懸念のひとつに「カニバリズム」と呼ばれるものがありました。カニバリズムとはもともとは人肉食、さらに共食いを意味し、マーケティングの世界では自社製品同士が同じ市場を奪い合う現象を意味する言葉として使われています。電子書籍が普及すると、出版社にとって従来からの売り物である印刷書籍と新たな電子書籍が同じ市場で食い合い、結果として得にならないというのが電子書籍カニバリズム論の骨子です。

電子書籍がいち早く普及したアメリカで、現実にカニバリズムが起きていないことからこの議論は下火になってしまいましたが、日本ではいまだに印刷書籍と電子書籍の競合を心配し、電子書籍を発売するにしても印刷書籍の後(つまり印刷書籍が売れなくなってから)に発売するほうがいいと思っている人がいるようです。

同様の懸念からでしょう、印刷版で売り上げが充分見込めるタイトルではなく紙で売れなかった(あるいは売れないと予想される)本こそ電子化したいという声も以前はよく聞きました。しかし、紙で売れないような本はそもそも読者にとって魅力がないのかもしれず、であれば電子化しても売れない可能性が高くなります。電子化する際のコストを考えると、いくら紙の本への影響がなかったとしても売れなければ意味がありません。

もちろん、紙の本が売れなかったからといってその本に本当に魅力がないかどうかは分かりません。たまたま時流に合わなかっただけかもしれないし、その本を読みたいと思うような層に存在が知られていないということかもしれないわけです。ただし、紙の本をそのまま電子化しただけであるならば、紙と同じように、いや紙以上に売れない可能性はきわめて高いでしょう。

印刷版と異なる売り方

一般の商品では、発売する商品を広く知らせるためにテレビコマーシャル、雑誌広告、インターネット広告、ポスターなど各種媒体を駆使した宣伝が行われます。

一方、書籍の場合、新聞や電車の社内広告程度、それも発売時に一度打たれるだけというのがほとんどでした。出版の情報発信としてはむしろ、営業が書店を回る営業活動がメインだったのです。なぜなら出版した本の存在を広めるには本屋という場での展示販売がもっとも効率的であり、ふさわしいと考えられていたからです。

本好きの人の場合、新聞などで広告を見た本を書店に行って買う、というよりも、いきつけの書店でとくにあてもなくブラブラしながら面白そうな本がないか物色する、というほうがよくあるパターンではないでしょうか。そのため、本好きが集まる書店でいかに本を露出してもらえるかということのほうが、メディアでの宣伝などよりずっと売れ行きを左右するポイントだったわけです。メディアを使った宣伝は、そのメディアを見るあらゆる人を対象にしますが、本はジャンルごとの嗜好性が強く、マスマーケットを対象にした方法は(よほどのベストセラーは別として)効率が悪いのです。

ところが、電子書籍の場合は印刷書籍と同じような手法が使えません。本屋という場そのものがないのです。もちろん、電子書籍販売サイトはバーチャルな“書店”ですが、店内全体をながめながらブラブラ一周し、面白そうな本を探すなどということはできませんし、本が平積みされるようなスペースもありません。逆に、ジャンル分けで細かく分類されていたり、検索機能が使えるといった「お目当ての本を探す」点でのアドバンテージはありますが、漠然と「面白そうな本はないかな」といった、いわば「掘り出し物を見出す」ための機能はありません。

電子書籍を販売する場合、話題性をいかに高められるかというのが最大のポイントになります。話題にならなければ、売れないどころかその存在すら誰にも知られない、それが電子書籍です。

話題性を高める方法として、まず考えるべきなのは「価格」です。たとえばアマゾンは、安売りによって話題性(注目度)を高め、それによって大きなシェアを築いたと言っても過言ではありません。

電子書籍を大幅に値引きすることで注目が集まり、それによって販売数が一気に上がります。販売数が上がるとベストセラーランキングが上昇、それによってさらに話題性(注目度)が上がるという好循環が生まれます。これによってそれまでは考えられなかったような部数を売りさばいたという例は少なくないのです。

もちろん、値引き販売ですから部数の増加に見合った売り上げ金額は得られません(卸価格は小売価格と連動しているわけではないので、値引きがそのまま出版社の損というわけではないが、値引き前提での卸価格交渉が行われると出版社にとっても厳しい)。それでも、部数が大幅に増えればトータルとして売り上げは増加します。電子書籍の場合、こういった売り方が主流になりつつあるようです。

また、価格以外にも、話題性を高めるためにFacebookやTwitterなどSNSを活用するという方法もよく行われるようになってきました。

印刷書籍と電子書籍の相乗効果

印刷書籍の場合も、話題になれば売り上げがアップしますが、人気作家であるか、文学賞を取るかでもないと大きな話題にはなかなかなりません。ネットで多少話題になったからといって、わざわざ書店までいって買ってみようとなるかというと、それも意外に難しいわけです。

電子書籍の場合はインターネット上ですぐ手に入るというのが大きいのでしょう、ネットで話題になればそれがそのまま売り上げにつながるというのが特徴です。一方で、街中の書店に並ぶ本と違い、インターネットの販売サイトだと従来の読者層みんながアクセスできるというわけではありません。

知名度が低く、そのままでは大きな話題になりそうにない本でも、印刷書籍と電子書籍の売り方をうまく組み合わせることで、相乗効果を図ることが可能です。たとえば、印刷書籍よりもまず電子書籍を先に発売します。その際、SNSを駆使し、価格の操作も適宜行うことで話題を盛り上げ、売り上げより販売部数をできるだけ伸ばすことに専念します。

部数が出てネット上で十分話題になったところで印刷書籍を発売します。これによって書店での置かれ方も有利に展開することができるでしょう。なにより、反響を確認してから印刷することができるので、売れ行きの見込みもつけやすく、返本率も抑えられるかもしれません。

単純に1冊あたりの利益だけでみると、印刷書籍で売れるのであれば電子書籍に力は入れたくないと考えるのも分からないではありません。しかし、印刷書籍と電子書籍は売り方も違い、購入する層も同じではありません。その違いをうまく活用することで、より大きな利益を得ることができる、というのが、さまざまな試行錯誤の末にようやく明らかになってきた考え方なのです。

(田村 2014.4.7初出)

(田村 2016.11.7更新)

 

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