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デジタル化する教科書

デジタル化する教科書

急速に進む教科書の電子化

コンテンツの電子化というと小説やコミックなど電子書籍が一般に思い浮かびますが、こういった一般コンシューマー向けの商品以外にも業務用や書類アーカイブ用などさまざまな用途があります。中でも今注目されているのが教育現場での利用でしょう。

学校でパソコンを導入する動きはかなり前から進められています。平成十五年には高校で「情報」が必修科目となり、また、小中学校でも授業で積極的に活用されるようになっています。

さらに、電子黒板や大型テレビに投影される「デジタル教科書(指導書)」も数年前から普及しつつありますが、個々の生徒が使う教科書に関してはこれまで目立った動きがありませんでした。個人が使うデバイスとなるとコスト的な問題が大きかったのですが、タブレットの急速な普及と低価格化もあり、ここにきて状況が変わりつつあります。

最近、全国各地でデジタル教科書を使う試みが見られるようになってきました。佐賀県は、2014年度から県立高校の全生徒にタブレットを購入させ、全面的にデジタル化を推し進めると発表し、大きな反響を呼んでいます。同県の武雄市でも2014年度に小中学生全員にタブレットを配布予定、また、大阪市は2015年にやはり小中学生1人につき1台タブレットを導入する予定であるなど、小・中・高のかなりの現場でタブレットとデジタル教科書の導入が進みつつあります。

一方、教科書を作る側の動きとしてはどうでしょうか。大手教科書出版社の東京書籍は、2013年からiPad向けデジタル教科書を発売しています。これは高校の「国語」「数学」「英語」「理科」「地歴・公民」「家庭」「情報」の14種類の教科書をデジタル化したもので、教科書をそのままデジタル化しただけでなく、資料映像や朗読、また、書き込みやノート機能、暗記シート、単語シート、ワークといった豊富な機能が備わっており、課題を生徒と先生の間でやり取りするといった機能も用意されています。

また、2013年9月には、山川出版社や光村図書出版など教科書出版社12社と日立ソリューションズがデジタル教科書の開発・普及のための団体「CoNETS」を立ち上げ、デジタル教科書閲覧ソフトを開発することになりました。教科書ごとに操作性が異なる状況を改善し統一的なプラットフォームを提供するというのが目的です。こちらはiPadだけでなくWindows 7、8用のソフトも開発、さらに市場動向によってAndroidへの対応も検討するということです。ちなみに教科書のベースとなるのはEPUBフォーマットで、そこに教科書に必要な機能が付け加えられるようです。

デジタル教科書の流れは国内だけではありません。むしろ、日本以上に進んでいる国が多いのです。シンガポールは早くからデジタル教科書の採用を積極的に進めており、2012年から全面導入しています。また韓国は、2014年に小中学校、2015年に高校でのデジタル教科書全面導入を予定しています。以前から経済発展に伴って紙の不足が叫ばれていた中国でも、教科書とノートの代わりにノートパソコンやタブレットを使う「電子かばん」の導入が進められています。

アジア諸国が行政主導でデジタル化を進めているのに対して、アメリカでは民間企業によるさまざまなサービスが登場しています。

アメリカの大学では授業で分厚く高価な教科書を使うため、古本の売り買いが一般的に行われてきました。学期の初めに教科書の古本を買い、不要になったらそれを売るわけです。そこに、紙よりも安価で持ち運びにも便利なデジタル教科書を販売するFlat world Knowledgeや、デジタル教科書のレンタルサービスKindle Textbook Rentalなどがサービスを始めています。

デジタル教科書普及のポイント

デジタル教科書にはメリットとデメリットがあり、デメリットをどう考えるかという点で、導入には国ごとに温度差があります。デメリットとして一番に挙げられるのは、デバイスを用意するために必要なコストでしょう。

デジタル教科書を使うためのタブレットは、学校側で生徒分だけ用意して貸与するという方法もありますが、それにはかなりの予算が必要ですし破損や紛失といった問題も考えなければなりません。

佐賀県のように生徒全員に指定タブレットを購入させるというやり方は、コストなどの面で反発が起きかねません(佐賀県立高校の場合、教材費込みで一律5万円という)。

生徒の家庭で持っているタブレットを活用するというのもひとつの方法ですが、急速に普及してきたとはいえ、すべての家庭がタブレットを持っているわけではありません。

タブレットをすでに持っていれば新たに購入しなくてもそれを使うのでかまわないというやり方にすれば反発はまだ少ないかもしれませんが、機種が異なると同じデータが読めなかったり、操作性が違うため教師の指示と合わなくなる、といったことが予想され、授業で生徒が使うのは難しいでしょう。

アマゾン社は、Kindleをプラットフォームとして学校や個人の教科書、書類などを配信し、閲覧・管理することができるというサービス「Whispercast for Kindle」を2012年から始めました。Kindleには、電子書籍専用端末であるKindle PaperwhiteやタブレットのKindle Fire以外にAndroidやiOS端末にインストールするアプリがあります(英語版にはさらにWindows版、Mac OS X版がある)が、どのKindleもクラウドベースで管理されているというのが特徴です。

この特徴を利用したのがWhispercastで、このサービスを使えば生徒のデバイスをあえて揃える必要がなくなり、しかも学校がコンテンツの配信などを統一的に管理することができます。これによって、たとえばiPadでもAndroidタブレットでも、あるいはiPhoneやAndroidスマートフォンでも教科書を使うことができるわけです。デバイスの問題を解決するには、このやり方はかなり現実的と言えるかもしれません。

デジタル教科書には今もなお賛否両論ありますが、時代の趨勢として避けて通ることはできないでしょう。今後はデバイスを含む環境をいかに整備するか、そして運用をどれだけ簡略化できるかといった点がポイントになってくるのではないでしょうか。

(田村 2013.10.15初出)

(田村 2016.11.7更新)

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