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文字組版と可読性

文字組版と可読性

組版デザインに求められる要素

印刷物を作る場合、文字の扱いは極めて重要な要素になります。印刷物のデザインをする人間は、その印刷物の性格を十分に把握し、対象となる読者を想定して、文章の読みやすさやインパクト、読み手に与える印象などを考慮しながら、書体を選択し、文字サイズや行送り、文字数、行数などを決めていかなければなりません。

たとえば、子供やお年寄り向けの印刷物では、文字サイズを大きく、行間も広く取る必要があるでしょうし、限られたスペースに細かな約款を詰め込まなければならないような印刷物であれば、小さな文字でもできるだけ読みやすい書体を選ぶことが求められます。また、特に注意を引きたい見出しであれば、インパクトの強い書体を大きく使うといった工夫も必要です。

通常デザインに求められる要素はいくつもあり、場合によってはお互いに矛盾することもあり得ます。たとえば、文字の読みやすさはほとんどの場合、重要なポイントになりますが、テキストの量や求められるイメージによってはそれと逆行するような処理が必要な場合もあります。日本語の文章において、読みやすさを実現するには適切な文字間隔と適切な行間隔を維持することが大切ですが、デザイン上、文字間隔をかなり広げたり狭くしたりしなければならないこともあるわけです。

とはいえ、いくらやむを得ない処理であっても、その加減を誤るとデザイン的によいものにはなりません。やはり何事もバランスが大切なのです。

最近の印刷物では、文字を詰める処理が目立ちます。文字を詰め込むことで、情報量は多くなりますし、行長の短い文章でもスカスカに見えるのを避けることができるといった点が、文字を詰める理由でしょう。しかし、文字を詰めすぎたことで、可読性を大きく損なってしまっているものも少なからず見受けられます。

可読性と文字間のアキ

文字を詰める場合、注意しなければならないのは、読むために必要な文字と文字のアキが確保できているかどうかという点です。文字と文字の間のアキがなければ、文字を一つずつ識別することが困難になってしまいます。ではどれくらいのアキが必要なのでしょうか。

現代の日本語は、漢字とかな、それに数字や記号類、さらにアルファベットも使われるなど、文字種が非常に豊富というのが特徴です。ここで考えなければならないのは、多くの場合、文字種の区切りが意味の区切りになっているという点です。たとえば、漢字が続く場合はひとつの熟語であることが多く、ひらがなの文章の途中にアルファベットがあれば、そこで意味が独立していると考えられるわけです。

人間が文章を読む場合、文字を目で追いながら意味を理解し、頭の中で文章を再構成していきます。文章を再構成するためには、意味の切れ目を常に把握するということが重要です。

幼い子供向けの本では、語句の間にスペースを入れる分かち書きがよく行われます。これは、意味の切れ目を強調するための工夫です。通常の日本語では漢字とかなが混在することで意味の切れ目を文字種の違いで表していますが、ほとんどひらがなばかりの幼児向けの本だと分かち書きをしないと意味が把握しづらいのです。

大人向けの本の場合は、文字種の違いを十分理解している人が読むため基本的に分かち書きは必要ありません。ただし、文字種の違いを把握しにくい場合は、ある程度の処理が求められます。

日本語文書の組版方法を規定したJIS X 4051には、和文と欧文の間にアキを入れる処理が示されています。これは、和文の中にアルファベットが入った場合に文字種の違いを把握しやすくするための処理と考えられます。漢字とかなに比べて、アルファベットは日本人に馴染みが薄く、文字種の違いを把握するためには文字の形だけでなくアキで補足する必要もあるということでしょう。

ただし、この考えでいけば、アルファベットと日本語の文字種の違い(意味の違い)の把握に習熟した人間であればアキは要らないということにもなります。コンピュータ系の書籍など、アルファベットが頻出する本で和欧間のアキがないものが多いのは、こういったことが影響しているのかもしれません。

いずれにせよ、文字種が異なれば意味が区切れることから言っても、異なる文字種同士のアキは詰め過ぎないというのは注意すべき点でしょう。

意味の区切れということでは、約物も重要です。句読点の後、起こし括弧の前や受け括弧の後などは、明らかに意味が区切れる箇所です。この部分をギリギリまで詰めるという処理もよく見かけますが、可読性という点からするとできるだけ詰め過ぎないほうが望ましいと言えます。

文字間を詰め過ぎない

同じ文字種同士であっても、詰め過ぎると可読性が悪化します。特に、横組みで縦長の文字、縦組みで横長の文字を使う場合は注意が必要です。たとえば、縦組みで漢数字の「一」が出てきた場合、前後を詰め過ぎると数字を見誤ってしまう危険が生じます。前後に「二」や「三」があると、注意していてもいったいいくつなのか分からなくなりかねません。

日本語の場合、多くの文字は全角幅の領域(仮想ボディ)を持っています。これはたとえ実際の字形が半角や三分角程度しかなくても、文字の領域としては全角が必要であるということです。もちろん、余白を詰めることは可能ですが、それによって本来必要なアキがなくなり、文字の識別に影響が出る危険があるということは覚えておかなければなりません。

文字の詰めは、段落スタイルなどソフトの設定で行われることが多いでしょう。その意味では、スタイルなどでの文字詰めの指定はよく吟味して破綻がないようにすることが必要です。

(田村 2010.3.1初出)

(田村 2016.5.25更新)

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