サイトアイコン InDesign(インデザイン)専門の質の高いDTP制作会社―株式会社インフォルム

多言語組版の基本

多言語組版の基本

多言語組版の環境

最近は日本語のほかに英語や中国語などいくつもの言語で組まれた印刷物も目に付くようになってきました。それだけ国際的な交流が身近になってきた表れでしょう。

ところで、日本語の組版には自信があっても、他の言語だとよく分からないという人は少なくないようです。今回は、多言語の組版を行う上で押さえておきたいごく基本的なポイントを解説します。

多言語組版を行う場合にまず考えなければならないのは、どういった環境が必要かという点です。

ソフトの場合、ユニコードに対応しているというのが一応の最低条件になるでしょう。もちろん、組む言語が日本語と英語だけということであればASCIIとシフトJISだけしか扱えない設計のソフトでもなんとかなりますが、基本的に多言語の処理はユニコード対応のほうがいいのは間違いありません(そもそも多言語を処理するのがユニコードの目的のひとつ)し、ユニコード非対応のソフトだと仮に組めたとしても出力でトラブルが生じる可能性が高くなります。ただし、そのソフトがユニコード対応を謳っていても、それが使いたい言語を扱えるという保証にはなりません。

また、同じソフトでも他の言語バージョンで作ったデータを日本語版で開けるとは限らないのでデータを流用する場合も注意が必要です。

文字を右から左に組み、複雑な語形変化もあるアラビア語やペルシャ語などのように欧米言語と構造が大きく異なる言語に関しては、現状ではその言語版のソフトが必要と考えたほうがいいでしょう。たとえば、日本語版InDesign(インデザイン)でもフォントさえあればアラビア文字は入力できますが、きちんと組版できるかというと難しいのが現状です。

なお、多言語組版処理を行う上ではアプリケーションだけでなくOSのサポートも必要です。最近のOSは日本語版でも数多くの言語をサポートしていますが、作業する前に扱いたい言語の設定をしておく必要はあるでしょう。

多言語の組版でもっとも重要なのはフォントの選択かもしれません。英語だけであれば日本語フォントのアルファベットでも組めますし、日本語のOpenTypeフォントにはフランス語やスペイン語などの西欧言語で使うアクセント文字も含まれています。しかし、日本語フォントの文字はあくまで漢字やかなを主体に作られており、アルファベットなどはデザイン的にイマイチということもあります。

また、Timesのような一般に普及しているType1欧文フォントにもアクセント文字が収録されていますが、世界で使われる文字を全て収録しているというわけではありません(なお、Timesには、従来のType1フォントのほか、文字種の多いOpenTypeフォントも存在する)。西欧言語のフォントであれば、Adobeやライノタイプ・ライブラリなどから出されているフォントコレクションでまかなえるとしても、その他の言語だとインターネットなどでかなり探しまわらないと見つからないかもしれません。

ただし、DTPでは制作環境と出力環境の一致も重要なポイントであり、制作側が自分で調達したフォントを何でも勝手に使えるというわけではありません。制作側と出力側でフォントやアプリケーションが細かなバージョンまできちんと揃っていないと思わぬトラブルが起きる可能性があるのです。この点も作業する前に確認しておくべきでしょう。

もし、制作する段階では出力側の環境を把握できないようであれば、フォントを埋め込んだPDFを作り、それを出力するという方法を考えたほうがいいかもしれません。ただし、その場合もトラブルが起きないという保証はありません。フォントによってはPDFでの出力に適さないものやトラブルが頻発するものもあるので注意が必要です。

いずれにしても、多言語DTPは通常の日本語DTPよりも出力のリスクが高くなるので、出力をどうするかという点は事前によく検討し、できる限り安全な環境で作業することが大切です。

欧文の組版ルール

日本語には日本語独自の組版ルールが存在するのと同様、他の言語にも日本語にはないルールがあります。といっても各言語の組版ルールを全て把握するのは無理ですから、ここでは英語組版を中心に解説しましょう。

英語では、Oxfordルール(Hart’sルール)とChicagoルールが二大組版ルールとして知られています。英語圏の仕事であれば、この二つのいずれかが基準と考えてまず問題ないでしょう。日本ではOxfordルールを基準にした欧文組版が主流のようです。

日本語と欧文の組版では多くの違いがありますが、一見同じような部分でも細かく見ると違いがあります。

たとえば、パーレンやコロンなどの前後のアキの問題です。日本語の感覚だと、パーレンやコロンの前後にはスペースを入れないというのが一般的でしょう。しかし、英文では、開きパーレンやクォーテーションの前と閉じパーレン、クォーテーションの後には必ずスペースが入り、パーレンやクォーテーションマークで括られた語句との間はアキなしというのが原則です。また、コロンの場合は、前の文字との間はアキなし、後の文字との間はスペースが入ります。

ちなみに、フランス語では英語のクォーテーションマークの代わりにギュメ≪≫を使います。このギュメやコロン、疑問符、感嘆符などは前後にスペースを入れるのが一般的な用法であり、英文とは異なっています。さらに、EUの公文書ルールでは英文の伝統的組版ともフランス語の一般的な組版とも異なるルールが示されており、どういう組版ルールを使うかの確認がこれまでよりもますます重要になってくると考えられます。

組版の処理はその言語の組版に精通した者が行うというのが原則です。日本で各言語の印刷物を作る場合に、その言語特有の組版に精通したオペレーターを確保するというのは難しいのが現状ですが、オペレーターは無理にしても、少なくともある程度の知識をもった人間が指示をするなりしないと、きちんとした組版は実現できないということは理解していなければなりません。

行の揃え方がポイント

組版の最大の目的は文章をいかに読みやすくするかということでしょう。文字幅が一定で規則的に組まれる日本語組版の場合、約物の扱いが重要になります。約物と他の文字の間隔、約物が行頭、行末にきたときにどうするかという点が日本語組版を設計する際のポイントになるわけです。

一方、単語とスペースで構成される英語などの言語では、単語間隔(つまりスペースの幅)、単語内の文字間隔、そして行末の単語をどう処理するかが重要になってきます。

まず考えなければならないのが、行末の単語の扱いをどうするかです。日本語の感覚だと行末はジャスティファイ処理をして揃えるのが当たり前に思うかもしれませんが、欧文ではそうとは限りません。

ジャスティファイ処理は行中の間隔を調節することで行末を揃えるというものです。基本的に文字幅が同じで、一行中の文字が多く、したがって調節できる文字間隔も多い日本語は比較的ジャスティファイ処理がしやすい言語です。

ところが、欧文の場合、単語の長さによって一行中の単語の数、つまり調整できる行中の間隔の数が違ってきます。たとえば、一行に11語入ったとすれば単語間のスペースは10個となり、仮に行末を2cm伸ばさなければならなくなったとしても単語間のアキは2mm広がるだけです。しかし行内に3語しか入らない場合、スペースは2個となり、2cm伸ばすためには単語間のアキが10mmも広がってしまいます。このように単語の間隔だけで調整するとなると組版が破綻してしまいかねないのです。

ジャスティファイ処理をしなければこの問題は回避できます。英文ではジャスティファイをせず、行長を揃えないラグ組みが伝統的によく行われます(行頭だけ揃える方法、行末だけ揃える方法、センタリングで揃える方法の3通りがある)が、ハイフネーションを使わず、また、行の長さがさほど長くないということであればこのやり方がもっとも自然な組み方でしょう。

では、行長を揃える場合はどういう組み方をするべきなのでしょうか。ジャスティファイの処理を行う場合に、極めて重要になってくるのがハイフネーション処理です。ハイフネーションとは行末に収まらない長い単語をハイフンで分割することですが、これによって単語間のスペースが広くなりすぎるのを防ぐわけです。日本語組版にはないこの処理をきちんと理解していないと欧文組版は行えません。

ハイフネーションでハイフンを入れて分割できる場所は単語の中で決まっています。英語の場合、音節の切れ目が分割できる位置です。音節は英語辞書にも載っていますが、音節の切れ目であっても、単語の最初の1文字だけ、あるいは最後の1文字だけで分割するのは避けるというのが一般的です。また、単語内に既にハイフンが存在する単語の場合は、そのハイフンが優先され、新たにハイフンを入れないようにします。

なお、ハイフネーション処理はソフトの自動処理機能で行うのが大原則です(InDesignで自動ハイフネーション処理を行うには文字設定の「言語」で英語など該当する言語に指定しなければならない)。ユーザーがハイフンを任意の位置に入れることも可能ですが、普通のハイフンを入力してはいけません。入れていいのは「任意ハイフン」などという名前の特殊なハイフンだけです。

ハイフネーションは、あくまで行末だけで行われる処理であり、文章の修正によってその単語が行末でなくなった場合は、ハイフンも必ず消滅させなければなりません。普通のハイフンを入れると、本来ないはずのハイフンが追加されたことになってしまうのです。

最後の修正でもう赤字が入らないという場合なら大丈夫だろうと思うかもしれませんが、後でテキストを抽出して流用するなどのケースも考えられる以上、固定ハイフンは使うべきではありません。同様に、ハイフンの後でうまく改行されない場合に強制改行などを入れるのも厳禁です。

スペースと文字送り

行末の処理のほかに重要な設定としては、単語間隔(スペース)と文字間隔(文字送り)があります。たとえばInDesignであれば、「ジャスティフィケーション」設定で単語間隔と文字間隔の指定が行えますが、デフォルトのままでいじっていない人が多いかもしれません。日本語DTPではほとんど使わないのでその重要性は理解されていないかもしれませんが、欧文組版の読みやすさはこの設定に掛かってくるといっても過言ではないほど重要な設定です。

単語間隔、文字間隔と読みやすさの関係は個人的な感覚によるところが大きく、ベストな設定は一概に決められませんが、言語やフォントによっても最適な数値は違ってきます。この設定は後で変更すると行のリフローなどが起きるので、組版作業を始める前にきちんと設定を行っておく必要があります。

なお、ジャスティフィケーション設定では単語間隔、文字間隔ともに「最小」「最適」「最大」の3つを指定して変動幅をコントロールするようになっていますが、単語内の文字間隔があまり変動すると組版品質の低下を招きます。文字間隔は固定か変動幅をごく少なめにして、なるべく単語間隔で調整するほうがいいでしょう。

我々日本人にとって、多言語組版は日本語組版以上に気を使い、しかもトラブルの危険性も高い作業です。これはソフトや環境、そして人が多言語の組版に十分対応できていないということに起因します。

ソフトや環境の対応の不備はなかなか改善することは難しいものがありますが、人の対応は知識の蓄積と伝達で向上することが可能であり、今後多言語の印刷物が増えていくにしたがって、多言語組版についての知識も一層求められてくることが考えられます。

(田村 2008.1.7初出)

(田村 2016.5.25更新)

 

モバイルバージョンを終了